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29年ぶりに弁士、伴奏付きで上映された「執念の毒蛇」=4日、那覇市の県立博物館・美術館

 

沖縄県立博物館・美術館の美術館10周年記念展「彷徨(ほうこう)の海」「邂逅(かいこう)の海」の関連催事「映像アーカイヴと沖縄(1)特別上映」が4日、那覇市の同館で開かれた。上映作品は「執念の毒蛇」(1932年、吉野二郎監督)と「吉屋チルー物語」(63年、金城哲夫監督)。フィルムを修復、デジタル化し本来の鮮明な映像がよみがえった。無声映画「執念―」は29年ぶりに弁士付きで上映し新たな命を吹き込んだ。

 

「執念の毒蛇」は現存する最も古い沖縄の劇映画。本部町出身のハワイ移民渡口政善が製作し、脚本と主演も務めた。粗筋はハワイ移民の大城政一がハンセン病になった妻君子を捨てて沖縄に帰る。君子は政一を捜し出して責めるが、殺されてしまう。政一とじゅりが寝ているところに君子の霊とハブが現れ、復讐(ふくしゅう)を果たす。

 

実話を基にしたとされているが、夫に殺された妻がたたる物語は逆立ち幽霊の怪談の影響も感じられる。女の執念が蛇となって現れるところは組踊「執心鐘入」の基となった道成寺伝説にも通じる。

 

88年には沖縄芝居役者の北村三郎が弁士を務めて琉球新報ホールで上映された。今回は北村の息子で役者の高宮城実人が弁士を務めた。弁士の台本は内務省の検閲に提出されたものが残っている。今回はそれに北村と高宮城が補作したものを用いた。高宮城が弁士に挑戦するのは初めて。講談や新派(明治30年代に確立した家庭悲劇、花柳物を主とする演劇)の調子を参考に演じ、昭和初期の沖縄へいざなった。

 

戦前は琉球の歌と三線による伴奏も付いていたという。今回は新垣雄(キーボード)、與那嶺理香(バイオリン)、平良大(歌三線・笛)、仲大千咲(箏・太鼓)が音楽を担当した。冒頭で平良がハワイ移民によって作られた「ホレホレ節」を歌い、幽霊が現れる場面では笛などの不穏な音色で盛り上げた。鑑賞した演劇評論家の与那覇晶子さんは「これほど辻の内部を撮った映像はほかにない。とても貴重だ。じゅりと客が互いに芸を見せる場だったこともよく捉えている」と評価した。

 

高宮城はじゅりたちのからじ(髪)結いにも注目する。例えば、古典舞踊「四つ竹」を踊るときは通常、「カムロ」という結い方にするが、映画の中のじゅりたちはそうしていない。また、「四つ竹」を踊る場面では大太鼓を連打する不自然な演奏をしているが、「普段太鼓を打っていない人にとりあえずやらせたのではないか」と指摘した。じゅりが「芳丸」という大和風の名前になっているのは渡口か県外出身の吉野監督の趣向とみられる。

 

「吉屋―」は金城がウルトラマンシリーズの脚本を手掛ける前に監督し、映像作家としての出発点となった。島正太郎、清村悦子ら往年のスターや今も現役で活躍する瀬名波孝子らの熱演に観客から感嘆の声が上がった。

 

◆来月2日、再上映

 

「執念の毒蛇」は12月2日午後2時から同館で再上映される。11月の上映会で録音した弁士の語りや伴奏を流す。映画研究家の世良利和さん、元琉球大教授の仲程昌徳さん、シネマ沖縄プロデューサーの真喜屋力さんによるトークショーもある。参加費無料。問い合わせは同館(電話)098(941)8200。

(伊佐尚記)

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