さまざまな種類のウィッグを取りそろえる「Wig(ウィッグ)サロン サンロード」のショールーム。 写真・村山 望 画像を見る

 

沖縄から全国へウィッグビジネスでまい進 Wigサロン サンロード

 

Wigサロン サンロードは、これまで抗がん剤治療による脱毛などで、ウィッグ(かつら)を必要とする多くの人たちに寄り添ってきた。現在は県内で、ウィッグビジネスを広げ、ウィッグを利用しやすい環境づくりに力を注ぐ。そしてさらに沖縄から全国への事業拡充を目指す。創業から43年。髪の悩みを抱 える人や理美容業界向上のために奔定する社長の興那覇政ーさんに話を伺った。

 

「みなさん、おはようございます」。與那覇さんが毎朝あいさつする相手はショールームにずらりと並んだマネキンたち。ある人から「人毛を使っていて怖くない?」と言われたことで、なんとなく気になり始め、あいさつをするようになったとか。帰るときも「『お疲れさま』を言わないと後ろ髪引かれる思い」だと笑う與那覇さん。その笑顔から人柄の良さがにじむ。

 

髪で悩む人のために

 

Wigサロン サンロードの前身「美容室サンロード」は1976年に県外の美容室の支店として那覇市内で開業。そこへ入社した與那覇さんは売り上げを伸ばすことに貢献し、店を譲り受けることになった。

 

当初はヘアカットやカラー、パーマなど美容を専門としていたが、あるとき客の中に子ども用のウィッグを求める人がいた。話を聞くと、交通事故に遭った父親が植物状態になり、その姿を見た中学生の少女が円形脱毛症になったというのだ。與那覇さんは少女のウィッグを作るため県外の美容室へ赴いた。

 

そのことがきっかけで、要望があればウィッグの注文を受けるようになった。また、抗がん剤治療による脱毛で悩んでいる人の話も聞いた與那覇さんは「これまで『髪のある人』のためのおしゃれをしてきたけれど、これからは『髪で悩む人』のための店づくりをしたい」と思うようになった。

 

しかし店のスタッフは皆、乗り気ではなく、悩んだ末に店を閉めることに。当時は沖縄市にも10年続けた支店があったがこちらも閉店。ほぼゼロの状態からウィッグの委託販売を始めた。

 

新たに浦添市内でウィッグサロンを開業し、既成品を並べ、セミオーダー仕上げも手掛けることにした。與那覇さんはウィッグを製作している国外の工場に出向き、直接取引をすることでコストを抑えるなど腐心。いまに至るまで紆余(うよ)曲折もあった。

 

「例えば50個注文して商品になるのが10個ということもあった。工場に改善を求めても言い訳をされ、怒鳴ったこともある。僕の後ろには信頼して商品を購入してくれるお客さんがいるから、より良いものを作るには強くならなきゃいけないと思ったんです」と熱く語る。

 

仕事の喜び

 

今年でウィッグサロンを始めて11年目。與那覇さんは理美容業界の増収を目指す事業計画を立て、県から経営革新計画の承認を受けた。それにより、ウィッグを必要とする人が行きつけの理美容室で気軽に相談し、安価で購入できるしくみをつくりたい考えだ。

 

「まだもうかったためしがない」と笑うが、医療用ウィッグで誰かの役に立てることが何よりうれしいという與那覇さん。こんなエピソードも話してくれた。

 

「病院に出張し、入院患者にウィッグを着けてあげました。ご主人と小さな息子さんもいらして、ウィッグを着けた彼女を見て喜んでいました。帰る間際、ご主人が私のところに来て『ありがとうございました』と何度も頭を下げてくれました。もうけとしては数千円だけど患者さんや家族の喜ぶ姿を見るとね、なんか…」とそのときのことを思い出し、目をうるうるさせた。この仕事をやっていてよかったと思う瞬間だったという。

 

目標に向かってまい進する與那覇さんの力強さと、優しく誠実な人となりを感じた。

 

(﨑山裕子)

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