30日投開票の沖縄県知事選を巡り、インターネット上で候補者が犯罪に関わったなどとする真偽不明の情報が大量に出回っている。こうした情報を国会議員が「当選を阻止する」と書き込んだ上で発信、首長経験者も「本当ですか?!」とコメントし、真偽を確認しないままシェアしており、拡散を続けている。公職選挙法では、当選させない目的で虚偽事項や事実をゆがめた情報を流した者は処罰の対象となる。名誉毀損(きそん)や同法違反で立件するかは最終的に警察が判断するが、ネットに詳しい弁護士によると、罪に問われれば、虚偽でないことを立証しなければ起訴される可能性もあるという。
専門家は「真偽不明の情報をSNS上に掲載する場合、事実である証拠が必要だ。証拠がない場合は取り締まりの対象になり得る。政治家がそうした情報を拡散し罪に問われた場合、一般の人に比べ、広く拡散される可能性から悪質性が高いと判断される余地がある」と指摘している。
あるサイトで知事選告示前、立候補を予定していた玉城デニー氏が過去に犯罪に関わったかのような情報が発信された。
情報の中で玉城氏の行為を把握していたとされる「当時の代表」や「当時の社長」として名前を挙げられた人物に本紙が取材したところ「全部うそだ」「勝手に名前を使われた」などと否定した。玉城氏本人にも確認したところ「勤務していた」と書かれている会社に勤務した事実はないという。
ある首長経験者は、この情報について別の人のコメントとともに自らのフェイスブックで「本当ですか?!」とコメントした上でシェアした。事実確認をしないままシェアしたことについて、この首長経験者に聞いたところ「本当かどうか分からないからやった。噂(うわさ)されるのはいかがなものか」と話した。
玉城氏は情報覚知から3日後、ネット上に虚偽情報を掲載され、名誉を毀損されたとして、犯罪に関与したかのような書き込みについては被疑者不詳のまま、那覇署に告訴状を提出した。玉城氏の代理人弁護士は「有権者に正しい選択をしていただくためには、事実無根のデマには毅然(きぜん)と対応する」とコメントした。那覇署は「個別の案件の回答は差し控えたい」とした。
別のサイトでは、玉城氏や故翁長雄志知事をおとしめるような動画が何本も掲載されている。3万人以上のフォロワーがいる国会議員はこのうち1本の動画を自らのツイッターに掲載し「当選を阻止する」と書き込んだ。これに対し、玉城氏は動画の自らに関する内容を自身のツイッターで否定した。
真偽不明の動画を掲載したことへの認識をこの国会議員に聞いたところ「真偽の問題があれば、ビデオ(動画)を作った人とやりとりしていただきたい」と述べ、自らに責任はないという認識を示した。公選法に違反すると思うかについて聞くと「私の行為に法的に問題があればそういう指摘をしていただければと思う。指摘を受けている認識はない」と答えるにとどめた。
ネット上の名誉毀損に詳しい清水陽平弁護士は「ネガティブキャンペーンと名誉毀損の明確な線引きはない」とした上で「十分に当事者の社会的評価をおとしめることになれば、名誉毀損の罪に問える」と述べ、リツイートで拡散した人も罪に問われる可能性があるという見解を示す。
公選法では虚偽情報を流すこと自体が処罰の対象となるが、実際に立件するかは最終的に警察の判断や選管の告訴の有無などに委ねられる。ネットに出回る真偽不明の情報に摘発が追い付いていないのが現状だ。
一方、佐喜真淳候補の選対は琉球新報の取材に対し、同様の問題で佐喜真氏が名誉毀損を受けた事例は25日現在、起きていないとした。県選管も同日、今知事選でネットのやりとりに関して公選法に触れる事案は把握していないという。 (’18知事選取材班)