普天間飛行場の返還・移設問題が最大の争点となった県知事選で辺野古新基地建設阻止を訴え、過去最多得票を獲得した玉城デニー氏が知事に就任した。安倍政権は「辺野古移設が唯一の解決策」として推進する姿勢を変えておらず、玉城知事にも難しい交渉が待ち受ける。一方で事態を打破する手法として米市民団体などと連携し、米国政府や議会に働き掛ける考えを示した。民主主義や多様性を尊重する独自のカラーを加え、さまざまな意見をくみながら丁寧で開かれた県政運営を導けるか手腕が試される。
名護市辺野古の新基地建設阻止の翁長路線を踏襲する玉城デニー県政が4日、始動した。就任会見で玉城氏は「対話によって解決策を導く民主主義の姿勢を政府に求める」と、知事選で示された沖縄の民意と向き合うことを政府に訴え、翁長県政で実行した埋め立て承認撤回への法的対抗措置を練る姿勢をけん制した。主要閣僚らは県知事選の結果にかかわらず辺野古移設を推進する発言を堅持しているものの、移設問題の行方が全国的な関心となる中で対応は慎重にならざるを得なくなっている。
■対話要求
玉城氏は23分間の就任会見で18回「翁長県政」「翁長さん」などと翁長前知事に言及した。一方で、翁長氏が就任時に政府との交渉を「いばらの道」と表現したことを記者から問われた場面では、「いばらをかき分けていったその先に、県民が求めている未来が必ず見えてくる。信じて突き進んでいきたい」と悲愴(ひそう)感を排除した“デニー色”ものぞかせた。
2014年12月に知事就任した翁長氏も首相や官房長官との面談を要請したが、就任から約4カ月、新知事との対話を拒否し続けた。こうした翁長県政発足時の状況について玉城知事は「政府の取るべき姿勢ではないという批判が上がった」と、政府が対応を誤ったとの見解を示した。
今回の知事選で政府が強力に支援した候補に約8万票の差をつけて圧勝した玉城氏から要求があれば、政府としても対話の要請をむげにする訳にはいかない。玉城氏は「日米両政府に対話の窓口を求めることも始めていく必要がある」と改めて対話を求める姿勢を示し、政府に4年前とは違う態度の軟化を迫った形だ。
■ショック
「新知事のご理解、ご協力が得られるよう粘り強く取り組んでいきたい」
菅義偉官房長官は4日の会見で、玉城知事の就任に関し、辺野古移設を進める考えを改めて強調した上でこう述べた。
政府関係者は「知事選で大敗したショックはしばらく尾を引く」と解説する。選挙で圧倒的な民意を得た県政が誕生した一方で、政権も2日の内閣改造で新たなスタートを切ったとはいえ、直後のマスコミの世論調査で支持率が下落する異例の展開。改造が“ショック療法”とはならず、全国的に再び辺野古移設が注目されたことで、対応に神経をとがらせざるを得ない状況でもある。
翁長前知事の県民葬が9日に控えていることも重なり、政府が県の埋め立て承認撤回に対する法的措置に踏み込めない状況は続く。防衛省関係者は法的措置について「事務的にあらゆる想定はしているが、何をいつどうするかは、全て極めて高度な政治判断になる」と語った。
玉城新知事が対応する今後の課題には年末に予定される沖縄振興に関する予算編成がある。翁長県政になってから辺野古問題を巡る対立を背景に年々減額されてきた経緯がある。
■揺さぶり
自民県連幹部は「もう次年度予算は(政府が約束した最低ラインぎりぎりの)3001億円になる。大型MICE施設の計画も完全に頓挫する。選挙戦で『補助金に頼らない自立型経済』と言ったからには、高率補助までなくなる可能性もある」と玉城新県政をけん制。21年度に期限が切れる沖縄振興特措法も県内移設の受け入れを迫る「カード」として使われる可能性を示唆した。
県幹部の一人は「沖縄県知事は大変だ。国との対立や揺さぶりなんて、他の都道府県知事は普通考えないだろう」と語りながらも「知事が言うように、いばらをかき分けて新しい未来をつくっていく。それに付いていくしかない」と力を込めた。(明真南斗、當山幸都、吉田健一)