榎森耕助さん(オリジン・コーポレーション 所属/左)と、ナビ芸人の松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄 所属) 画像を見る

 

沖縄のお笑い界を芸人視点で紹介するこの連載。ナビゲーターは「初恋クロマニヨン」松田正(まつだ しょう)さんです! 今回は、全国的に熱く注目される「あの芸人さん」を直撃してもらいました。

 

ナビ芸人の松田正です! 今回はオリジン・コーポレーション所属の榎森耕助さんを訪ねました。リップサービスのツッコミ役として活躍し、県内コンテスト「お笑いバイアスロン」で4年連続優勝。2017年からはYouTubeチャンネル「ワラしがみ」を開設して番組配信し、真っ赤なふんどし姿で登場するキャラクター「せやろがいおじさん」がブレイク中です。「はちノリ」というお笑いユニットでは一緒に活動する榎森の頭の中、のぞいてみました。

 

「せやろがいおじさん」の誕生秘話

 

松田ナビ:今、目の前にいるのは……リップサービス榎森? YouTuberえもやん? それともせやろがいおじさん? どっちなのか確認していいですか(笑)?

 

榎森:「今はリップサービス榎森ですね。3つの顔を使い分けてキングギドラ状態です(笑)。

 

松田ナビ:さっそくですが、話題の「せやろがいおじさん」がここまで広がったきっかけを教えてください。

 

榎森:最初は「違法アップロードされたAV」に物申した動画がきっかけで、その後「りゅうちぇるさんのタトゥーについて思うこと」で大きく広がりました。Twitterにアップした動画が100万回くらい再生されました。でも他の人が勝手にアップした動画の方が約450万回見られていました(笑)。

 

https://www.youtube.com/watch?v=C7vDbKrga8Y
りゅうちぇるのタトゥーについて思う事を沖縄の海に叫んだ【せやろがいおじさん】

 

松田ナビ:YouTubeで動画配信を始めたのは、どういう流れからですか?

 

榎森:松田さんも感じたことがあると思いますが、沖縄県内の賞レースで優勝しても劇的に状況が変わるわけではありません。また県外の賞レースでは勝ち進む難しさにも直面します。もちろんネタ作りは今まで以上に頑張りますが、ネタ以外に全国に向けて発信できることをやろうと始めたのがきっかけです。

 

松田ナビ:リップサービスは、まずネタが面白い。ネタをおろそかにして違うことをやると、他の芸人さんは彼らのことを認めないと思うんですよ。でもネタで結果を出して、さらに影響力を持つ路線を作っていますからね。

 

榎森:「せやろがいおじさん」を入口に僕らのネタにもたどり着いてほしいので、おろそかにしたら本末転倒。今の僕は動画に力を入れていますが、相方が前よりもたくさんネタを書いてくれるようになったんです。「榎森は動画を頑張っているから、俺はネタ作りを頑張る」という気持ちを感じます。相方に感謝し僕は広告塔になり、リップサービスを見てくれる人が増えるように頑張ろうって思っています。

 

松田ナビ:そもそも「せやろがいおじさん」を始めたきっかけは、なんだったんですか?

 

榎森:結婚式で騒ぐ人に一言とか、あるあるネタからでした。共感した人がSNSで拡散してくれたらいいなって思ったんです。でも時事ネタの方が、広がりや共感が深かった。

 

松田ナビ:芸人は時事・政治ネタに触れるのはちゅうちょしてしまう部分がありますが、そこに踏み込んだのは?

 

榎森:できれば純粋にネタだけで勝負したいのですが、それだけではやっていけない。なので、YouTubeでは時事ネタなどの共感ポイントに飛び込もうと。芸人としての純度は薄れるけども、プライド捨ててやってみようという気持ちになりました。オーバーかな?(笑)。

 

松田ナビ:ネタと動画のすみ分けが実を結んでいますね。いわゆる動画がバズった後、状況は変わりましたか?

 

榎森:沖縄県内のメディアから取材があり、県外大手メディアからの取材も増えました。ずっと聴いてきたTBSラジオ「セッション22」が取材に来てくれたのはうれしくて、自信になりました。全国で知られたいと思っていたので、その状況を実現しつつあるのかなって感じています。

 

松田ナビ:「せやろがいおじさん」を見ていると、榎森の愛を感じます。まず愛があり、好きなものに言いたいことを言う。

 

榎森:「俺も分かるで~、あんたらの味方やで~」って思うんですよ。「言葉を発したらこの人たちに響くものになるのかな」という感覚といいますか…。例えば雑誌「新潮45」に対しての動画は、僕の中でかなり攻めたんですよ。予想通り反発がたくさん来る中、LGBTの記事でふさぎ込んでいた方が「心が軽くなりました」などと言ってくださって、やった意味があったなって思いました。でも、今は僕の動画を支持してくれる人が多いですが、「芸人が世間様に何偉そうに言ってんねん」という自覚もあるので、反論コメントがくるとホッとするという変な感覚もあります(笑)。

 

松田ナビ:地に足を着けていますね。そういえばこの前、いとこがYouTubeで「せやろがいおじさん」を見ていて、不思議な感覚でした。

 

榎森:その状況すごい(笑)。若い世代は、なかなかお笑いを届けられない層でもあります。だからこそ届くように、違う形の発信方法を持っていたいなって思います。Twitterのフォロワー数10万人を目指し、実現したら各都市でライブをやり、リップサービスとしても広げられたらと思います。YouTubeの目標となる目印が、やっと見えてきたかもしれません。

 

リーダー気質でなくて任され気質!?

 

松田ナビ:もともと奈良県出身の榎森さん。沖縄で芸人になった経緯を教えてください。

 

榎森:大学進学で沖縄に来まして、国語教員になるための勉強をしていました。ずっとバスケットボールをやっていたので、バスケを教える教員になりたかったんです。在学中にオリジン・コーポレーションという事務所に出会い、サークル感覚でお笑いを始めました。ですが教育実習で教師の夢を挫折してしまい、芸人を続けて今に至るって感じです。

 

松田ナビ:事務所ではリーダーを務めていますね。

 

榎森:芸歴3~4年目の頃にリーダーになり、8年ほど続けています。でも、このリーダー経験が「せやろがいおじさん」の土台となっているんですよ。というのも、沖縄の芸人はクセのある人ばかり(笑)。方向性バラバラな人たちが集まる団体で、チーム全体の着地点を作らないといけない。そのため芸人仲間をいろんな角度から見ながらプラスの言葉をかけながら、方向性を示していくという経験が「せやろがいおじさん」の原点になっています。

 

松田ナビ:チームを率いる経験が「せやろがいおじさん」のフォーマットにつながっていたんだ! 20代の若者が団体をまとめてきたのは、大変なことですね。

 

榎森:奈良から沖縄に来て、お笑い事務所のリーダーなって、クセ者たちをまとめるって…。当時は「俺何してるのかな~」って思いましたよ(笑)。

 

松田ナビ:でも榎森は、どんなコミュニティーでもリーダーになれる人だと、上の方に言われたんですよね? 仕事が丁寧で着地点を示せるリーダータイプですね。

 

榎森:最近はリーダーを飛び越え「せやろがいおじさん、総理大臣になって」ってコメントがきまして、ついに一国を治める要望が来ました(笑)。でも僕はリーダー気質というより任され気質で、誰もやる人がいないからやるというタイプなんです。

 

松田ナビ:それは確かにあるかも。「はちノリ」で集まると何かと榎森に任せてしまいがち。面倒くさそうな顔してるのたまに見る(笑)。

 

榎森:「はちノリ」メンバーでは芸歴も年も一番下なので(笑)。

 

松田ナビ:動画や音楽の編集できて、文章も書ける能力が高い榎森がいると、できる人がやった方がいいという空気になるんですよね。面倒なこといろいろあっただろうけど、今に全部つながってない!? 良かった良かった(笑)。

 

榎森:そうですね。良かったです!(笑)

 

沖縄で育んだ力を元に全国へ

 

松田ナビ:今までの苦労が実ってきていますが、今後の展望は?

 

榎森:今はまだステップの第一段階。しっかりオファーがかかって、定期的に県外でもお仕事できるようになるといいですね。YouTube以外にもTikTok(ティックトック)も絡めたら若者に刺さるのかなとか、それぞれの年齢層にハマるやり方を考えています。

 

松田ナビ:ここが榎森のすごいところ。YouTubeが成功したら、普通は骨太主張が正解だとそこだけに突き進むはず。でも可能性を見て全方位を狙っているのが榎森であり、結果を出す要因でしょうね。1つの成功では満足しない。

 

榎森:失敗すると元の状態に戻ってしまう可能性もあると思い、ビビりながらも可能性を広げていくつもりでやっています。

 

松田ナビ:沖縄でお笑いやって良かったと思えることはありますか?

 

榎森:相方と出会い、仕事にも恵まれて成長することができました。ドローン撮影や動画関連を協力してくれる方もいます。「せやろがいおじさん」の特徴であるきれいな海をバックにした撮影は沖縄でしか撮れないし、沖縄じゃなきゃこの環境は絶対作れなかったなという思いがあります。「沖縄に来た道は正解だった」と、ようやく思い始めているところですね。

 

松田ナビ:関西弁の芸人が沖縄でお笑いをしていると少し浮いちゃいますが、榎森はその垣根を壊した。「沖縄のお笑い界にはリップサービス榎森がいる」と沖縄県民に認められ、能力を発揮しています。沖縄でやる意味がわかった今、力を入れていきたいことは?

 

榎森:今はブログの可能性の多さに改めて気付き、力を入れています。動画で言い切れないことを補足して、人間的な部分を見てもらうこともできる。Twitterの短文に慣れた状態でやると面白いですね。

 

松田ナビ:最後にコンビの抱負をお願いします。

 

榎森:10月からQABさんの新番組「ハピイレ」(毎週土曜 午前10時50分~放送)の準レギュラーになり、生放送のチームに入れることがすごくうれしいです。ロケが終わっても映像編集しなくていいんだってのもうれしい。最近、動画編集ばかりでしたから(笑)。

 

松田ナビ:編集不要がうれしいって新感覚だな(笑)。「せやろがいおじさん」はテーマも内容もいいけど、テロップ文字の大きさなども絶妙で「榎森の動画は面白い」と評価されていますよね。

 

榎森:そう言っていただけるとありがたい! お世話になっている放送作家の方の「ちょっとずつ背伸びしていくことが大事だよ」という言葉が心に残っています。その気持ちで仕事に励んで、リップサービスのネタを見る人が増えて大舞台で活躍したい。もっと言えば、リップサービスを見るために沖縄に来る人が増えるといい。そしたら沖縄の芸人がもっと知られるようになります。大きな目標ですがそこまでできたらいいなと思います。

 

松田ナビ:きっとできます、榎森なら! 今日はありがとうございました。

 

【対談を終えて・・・】

 

☆榎森耕助 さん☆

 

芸人の松田さんだから気持ちがわかって話しやすい。いいとこ聞いてくれるインタビューでした。普段プライベートな話もしているので照れましたが、芸人目線で聞いてくれるところがたくさんありました。

 

☆松田ナビ☆

 

感受性が強い男だなと改めて感じました。「この人はこういう気持ちなんだろうな~」ってところを動画にしている訳ですから。「せやろがいおじさん」は男版・西野カナだと思えましたよ(笑)。

 

【プロフィール】

 

★榎森耕助(えもり こうすけ)

 

生年月日:1987年9月17日

 

身長/体重:174cm /76kg

 

出身地:奈良県天理市

 

趣味:卓球/ボーリング

 

特技:バスケットボール

 

Twitter:@emorikousuke

 

YouTubeチャンネル「ワラしがみ」 https://t.co/hX9p5U5gBE

 

★松田 正(まつだ しょう)

 

生年月日:1984年8月22日

 

身長/体重:178cm /70kg

 

出身地:沖縄県読谷村

 

趣味:ソフトボール/漫画

 

特技:野球

 

Twitter:@hatsukoimatsuda

 

【インフォメーション】

◆オリジンお笑いライブ 喜笑転決 vol.271◆

 

日時:2018年11月24日(土) 19時開演

 

会場:那覇市ぶんかてんぶす館4階 テンブスホール

 

チケット:一般1500円/小学生1000円(前売り・当日共に)

 

出演:こきざみインディアン/ベンビー/リップサービス/じゅん選手/ノーブレーキ/しんとすけ/ココリッチ他

 

問い合わせ:098-866-6118 〔オリジン・コーポレーション〕

 

執筆:饒波貴子(フリーライター)

 

饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。

【関連画像】

関連カテゴリー: