【宜野湾】米軍普天間飛行場の存在により居住地域が分断されている沖縄県宜野湾市で、海岸沿いの西部と高台にある東部で防災意識の差が課題になっている。市内23行政区中、10区には自主防災組織があるが、津波被害を想定した西部が大半だ。しかし大型地震が起きれば各地で被害が予想されるため、市は「東部地域にも高い防災意識が求められる」と危機感を強めている。津波発生時には避難民が東部の高台方面に向かうことが想定されるが、道が限られ混雑が予想されるため、市や識者からは東部地域で受け入れ体制を構築する必要性を指摘する声も聞かれる。
市の西海岸地域は埋め立て地も多く、海抜が低い。マグニチュード8・2の地震を想定した県の調査では、市内の最大遡上(そじょう)高(津波が達する高さ)は9・7メートルとされ、海水が押し寄せる地域は西部の6行政区にまたがる。そのため、以前から防災意識が高い傾向にあり、6行政区全てで自主防災組織が結成されている。
昨年11月に組織を立ち上げた大謝名区の天久盛忠会長(68)は「毎年の避難訓練だけではマンネリ化してしまう。災害はいつ起きるか分からないので、新たな取り組みも行い、高い防災意識を保ちたい」と話す。本年度中には津波発生時の避難マップを作成し地域に周知する予定だ。
「自治会核に」
一方、海抜100メートル超の地域もある東部地域で自主防災組織があるのは愛知区、野嵩2区、普天間1区の3行政区にとどまる。市市民防災室の宮城竜次室長(42)は「地震が起きれば津波被害だけでなく、建物の倒壊や火災は各地で起きる」と危機感を示す。加えて「災害が起きた時、地域の災害状況を発信する体制が必要だ」とも述べ、災害時に市全体の状況を把握するためにも、個々の組織が必要との見解を語った。
愛知区が自主防災組織を結成した16年12月当時、自治会長を務めていた市議の上里広幸さん(41)は「災害に対する周知が薄かったこともあり、時間をかけて意識を高める必要があった」と結成当時を振り返る。その上で「災害は津波だけじゃない。西海岸地域や東部に関係なく、何か災害が起きた時に地域が団結できる状況を自治会が核となって進んでつくらないといけない」と指摘した。
避難者受け入れ
津波が発生した場合は西海岸の住民のほか、市内に居合わせた他の市町村の人や観光客ら数万人規模の人が東部の高台へ移動することも考えられる。そのため、公民館などでの避難者の受け入れを想定した訓練の必要性を指摘する声も聞かれる。
大謝名交差点から東部方面へ上る県道34号沿いに位置する上大謝名自治会では、14年7月に自主防災組織を立ち上げ、避難者の受け入れを想定した炊き出し訓練などを他地域に先駆けて実施している。
同自治会の大城ちえ子会長(65)は「災害時は一時的に公民館に人が集中する可能性がある。自身に被害がなければ、公民館でボランティアをするなど、受け入れの意識を持つ必要がある」と指摘した。
限られた道路
津波が発生した場合には市が抱える特有の課題もある。市の面積の約4分の1を占める広大な普天間飛行場が市の中央にあるため、東部に向かう主要道路が市北部の県道81号か市南部の県道34号、米軍と市の協定で津波発生時に利用できる同飛行場内の大山ゲートから佐真下ゲートに抜ける道しかない。そのため、この限られた道に人が殺到する恐れも指摘される。
阪神淡路大震災で被災した経験を持つ防災士の稲垣暁さん(58)=沖縄国際大学非常勤講師=は「宜野湾市は基地があるために人口密度が高く、道も少ないので、津波発生時はすぐに東部へ向かう道が人でびっしりになる。道が崩れれば緊急車両も通れなくなるので、いかに共助機能の向上や室内の転倒防止などの備えをしていくかが大事だ」と語る。
稲垣さんは、避難者受け入れの際に考えておくべきこととして(1)けが人や高齢者など受け入れる優先順位を決めておく(2)後日以降の支援物資を配るためになるべく受け入れた人数を把握する(3)緊急車両なども入るため交通整理をする―などを挙げる。そのほか、防災士の人材育成なども求めた上で「防災計画は市全体や市町村間での議論も重要だが、市内でも各地で環境が違う。地域ごとでも防災について考えてほしい」と訴えた。
(長嶺真輝)