ナンポー代表取締役社長・安里睦子さんに聞く
結婚して姓が変わっても仕事は「安里姓」を使うと決めていた。沖縄県内でお菓子を製造・販売するナンポー代表取締役社長の安里睦子さん(46)は、創業者の父から会社を引き継ぎ、安里姓に誇りを持っている。
高江洲洋子(琉球新報社編集局記者)
旧姓でも問題ないと思っていたのに
2018年6月4日に再婚し、姓が「城間」に変わると思いがけない壁にぶつかった。仕事で使う法人用銀行口座の名義だ。通常、銀行からは戸籍姓を使うように求められるが、名義を「城間」に変えると、会社代表の「安里」が記された書類とくい違いが生じてしまう。銀行口座を通して金銭のやりとりをする保険証やリース契約書、不動産の契約書類…。関連会社の分を合わせると、書き換えが必要な書類は100種類を超えた。
ビジネスの場で「安里姓」が使えなくなるかもしれないー。喪失感に襲われた。
「安里睦子でがんばってきたのに、姓が変わると社長が変わったと思われてしまう」
口座名義は旧姓のままにできないか模索する中、会社の登記簿なら旧姓・新姓が並記できることが分かった。登記簿に旧姓・新姓のどちらも記して、身分証明書として沖縄県内3銀行に提出し、法人用口座の旧姓使用が認められた。会社にかかわる書類を書き換えなくて済んだ。
民法では夫婦別姓を認めておらず、日本ではほとんどの女性が姓を変えている。姓を変えれば健康保健証、銀行口座、生命保険の名義をすべて戸籍姓に変えなければならない。
「男性にはこの苦労やストレスは分からないのでは」
「女性で役員や経営者になる人は、ビジネスの場で私と同じような壁にぶつかるのではないか」
女性登用を阻んでいるもの
安里さんが創業者の安里正男氏からナンポーを引き継いだのは2016年。菓子づくりの戦略を「もっとお菓子を楽しもう」というコンセプトに変え、シークヮーサーや紅芋、マンゴーなど沖縄の原材料にこだわりつつも、目で見て楽しい色合い、洗練された包装を取り入れ、新商品を発売してきた。
安里さんは、性別を問わず能力、度量の大きさを見て、役職に登用するようにしている。しかし、女性を管理職に起用しようとすると、女性からは家庭のことを心配する声が出てくる。
「子育て、家事をどうすればいいのか。自信がない」
女性に家事が偏り、長時間労働が当たり前の環境が女性の社会参加を阻んでいると感じている。
社内では働き方改革の一環として、30分遅く出勤するシフトを取り入れた。男性には「出勤する前に家事をしなさいと言っています」
「姓」の選択肢増やして
安里さんの次の夢は海外進出だ。だが目下、頭を悩ませているのはパスポートだ。パスポートは戸籍姓になるため、名刺と法人用口座の名義に違いが生じてしまう。物産展や視察で海外へ行く際に、パスポートが旧姓のままでは仕事がしづらく、仕事に支障が出る。海外ではパスポートが身分証明証になるからだ。
「役員クラスや経営者の女性ほど同じ壁にぶつかってしまう。理不尽だと思う。(国は)『女性活躍推進』といいながら(法や制度として)まだ対応できていないと思う。私が苦しんでいたら、周りの女性は私のような立場にはなりたいと思わないし、憧れないですよね」
公的に夫婦が違う姓を名乗れる、両姓どちらも使えるような社会を望んでいる。
「本当に『女性活躍』をうたうなら、制度を変えてほしい」