長堂豆腐店の長堂茂さん。長年の感覚を頼りに黙々と豆腐作りに励む 画像を見る

 

水が豊富で豆腐作りが盛んだった繁多川。住民の生活を支えたカー(井泉)や首里へと続く真珠道、瓦屋根の民家が残る街には昔ながらの風情がある。

 

「昔から変わらない文化や味があるらしい」。そう聞いた記者たちは、繁多川の街をほろほろした。

 

豆腐は朝に生まれる

朝8時、「長堂豆腐店」 1 には大豆の香りがふんわりと漂っていた。湯気が立ち上る地釜からくんすー(分離した汁)をすくっているのは3代目店主の長堂茂さん(59)。

 

「ほら、ゆし豆腐が生まれてきたよ」。これは生き物のように豆腐を扱う先代からの表現だ。

 

水が豊富だった繁多川地域には50軒以上の豆腐店があったが、スーパーが建つなど時代の変化とともに現在は3軒まで減った。それでも長堂さんは繁多川で豆腐を作り続ける。「地域の人がおいしいと言ってくれるからね。愛されていると感じるよ」とにっこり。

 

作り方は先代の仕事を見て覚えた。「大豆の香ばしさを出す火加減が難しい。柔らかいけれどチャンプルーにしても崩れないのが長堂豆腐店の特徴だよ」。卸し先の飲食店が求める商品作りにも挑戦している。

 

あちこーこーのゆし豆腐を一口食べると豆の甘みが広がった。絶妙な塩加減でやさしい味。ぜいたくな朝ご飯に記者は「早起きして良かった」。長堂さんは「手作りにしか出せない味がある。この味を残したいね」と力強く語った。

 

琉球八社の一つ、識名宮の隣にある「繁多川公民館」 は、在来大豆を育てて戦前の豆腐作りをする「あたいぐゎー(家庭菜園)プロジェクト」で地域の豆腐文化を盛り上げている。館長の南信乃介さん(37)は「昔は3軒に1軒は豆腐屋だったと聞いた。今も豆腐作りを核に、若者が地域とつながっている」とうれしそう。

 

館内には、地域住民が作製した豆腐作りに使う道具が展示されている。「昔ながらの道具を1年以上かけてこつこつ作り、提供してくれた。控えめでシャイな人が多いが、地域にかける思いの深さを感じる」

 

屋上の菜園には今日出たばかりの大豆の芽と対面。「ハトが狙って来るんです」と話す南さんの声に「クルックルー」と天敵のハトの鳴き声が重なった。

 

リュウキュウマツに見守られ

かつて集落で暮らす人々の飲料水・生活用水として大切にされたウフカー(大川)のそばに、繁多川の街を見守るように立っているリュウキュウマツがある。その少し先に食堂を見つけた。「食堂ざっくばらん」  だ。

 

いらっしゃいませ―。店主の平良恵美子さん(68)のぱりっとした声が店に響く。買い物帰りの人や作業服の男性などであっという間に満席になった。

 

2004年、繁多川に夫婦で食堂をオープンしたが、09年11月に夫が他界。一度は店を畳むことも考えたが、周りの後押しで翌年1月に店を再開した。「私、料理が下手で一切作っていなかったの」と恥ずかしそうに笑う恵美子さん。「でも彼の友だちが味見役で来てくれた。みんなで作った食堂なのよ」

 

メニューの一番人気はフーチャンプルー(550円)。日替わりの豚こま肉団子のポン酢あんかけとスーチカーわかめそばを3人はぺろりとたいらげた。

 

おなかを満たした一行は、ゆるりゆるりと通りを下り、次の目的地「いづみ洋菓子店」」 4 へ。しばらく歩くと、趣ある赤瓦屋根が見えてきた。2代目店主の當銘詩子さん(50)がビッグスマイルで迎えてくれた。

 

創業49年を迎える店の看板商品は、初代平良玄昭(げんしょう)さん(76)が考案したバナナケーキ。原料は1982年の販売から小麦粉に卵、バナナ、黒糖に三温糖とシンプルで、変わらない味を求めて遠方からも足を運ぶ人がいる。

 

バナナケーキを結納の引き出物にした女性が、孫の出産のお祝い返しに買い求めることもあるという。當銘さんは「長く食べてもらえることがうれしい。父の頃と味が違うと言われないよう努力したい」と話す。舌に残る記憶は幸せなものであることが多い。バナナケーキは、家族の門出と思い出を支える幸せの味なのだろう。

 

地域の名店 色とりどり

長く愛されるさしみ屋さんがあると聞きつけ、「金城精肉鮮魚店」 5 を訪ねた記者たち。創業35年。店内の二つあるショーケースには、グルクンにミーバイ、シチューマチ、生きのいい県産魚と、県産豚のブロックが並ぶ。

 

だが、肉や魚以上に店のスペースを占めていたのは日用品や総菜だった。

 

われわれはさしみ店に来たのではなかったか。少し混乱していると「元はさしみ屋だったんだけどね」と店主の金城和好さん(63)。大型スーパーの出店で地元の商店が相次いで閉店したため、長年通りで買い物をしていた地元客の要望で日用品も扱うようになったという。

 

とはいえ本業の鮮魚も種類は豊富。和好さんが毎朝、競りで仕入れた10種類ほどを販売している。「刺身の注文が多いけどね、焼き魚や唐揚げもおいしいよ」。和好さんに相談しながら、献立を考えるのもおすすめだ。

 

墓が並ぶ識名霊園の通りを歩くと、パン屋「いまいパン」  を見つけた。ドアを開けると甘い香りでいっぱい。パン80種類、ケーキや焼き菓子50種類がずらりと並んでいる。

 

店主の今井あいこさん(41)と陽介さん(42)はフランス修行中に出会い、2012年にあいこさんの父が営んでいた金物屋の土地を譲り受け、いまいパンをオープンした。

 

「店のコンセプトは“沖縄とフランスの融合”です。沖縄の食材で商品を開発しています。フランスっぽくパンとケーキも置いています」とあいこさん。旬の野菜や果物、地域の食材を使うことにこだわっている。

 

17年には沖縄の菓子「塩せんべい」をベースにフランス菓子のフロランタンをイメージした「識名園るうまんぺい」が、全国菓子大博覧会で最高賞の名誉総裁賞を受賞した。

 

おすすめのパンは長堂豆腐店にオーダーメードしている濃厚な豆乳を使用した「繁多川豆乳パン」。ふんわり柔らかく、かめばかむほどほのかな甘みが口に広がる。あいこさんと陽介さんは「地元の食材で商品を作り、地域が注目を集められるようになればうれしい」と目を輝かせた。

 

(2019年4月7日 琉球新報掲載)

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