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【東京】新型コロナウイルスの感染拡大が衰えない東京。写真家の初沢亜利さんが日本国内でも新規感染者数が最も多い東京の今を切り取った写真集「東京、コロナ禍。」(柏書房)を出版した。これまで東日本大震災後の東北や北朝鮮、沖縄と、相次いで“周縁”を撮ることで「トーキョー」を照射してきた初沢さんだが、今回は自ら育ってきた足元「東京」を見つめた。そこで見えてきたものとは。(東京報道部・滝本匠)

 

「東京」を撮ることになるきっかけは沖縄だった。

 

2015年に、沖縄で1年余住んで撮った前作の写真集「沖縄のことを教えてください」(赤々舎)を出した初沢さんは、同じころに同じく沖縄を撮って写真集「絶景のポリフォニー」「okinawan portraits 2010―2012」(同、2014年)を出版し、木村伊兵衛賞を受賞した写真家の石川竜一さんと琉球新報紙上で対談した(2015年12月16日付から3日連続で文化面に掲載)。初沢さんが沖縄で撮ろうとした理由に、本土による植民地主義が向けられている対象としての沖縄という視点があったが、対談で石川さんからその「植民地的視点は必要なのか」と問われた。「沖縄のこと―」には末尾に「沖縄滞在を振り返る」と題した一文を掲載した。沖縄で撮ることの意味を、植民地的視点も含めた初沢さんなりの「言い訳」を補っていた。

 

沖縄に来て撮って、では自分の足元の東京を撮らないと認めない―。

 

自分にとって暮らしてきた東京の景色は当たり前になっていて刺激もなかなか感じない。沖縄県宜野湾市生まれの石川さんは自分の生まれた街を撮っている。自分は自分の住む東京を撮っているのか。石川さんから突きつけられた問いが対談以降、この5年間ずっとくすぶっていた。

 

2020年明けたころはまだ東京オリンピックの開催が予定されていた。オリンピックイヤーの東京を残しておこうという思いもあった。結果的には新型コロナウイルスの中での東京を記録することになった。

 

これまで2012年に東北被災地の写真集「True Feelings―爪痕の真情―」(三栄書房)と、北朝鮮の日常を追った「隣人。38度線の北」(徳間書店)を出して、沖縄に向かった。これらは全て、地政学や安全保障面から見た東京からの「周縁」。フクシマはエネルギー安全保障の再考を突きつけ、安全保障状の「脅威」の対象として挙げられてきた北朝鮮。中央政府(権力)が演出する「周縁」の姿は本当はどうなのか。そういう思想が通底している。

 

「周縁を渡り歩いて10年がたった。思い返すと長い旅だった。東京で暮らしているとテレビの報道も情報番組もいかに東京中心なのか気付いていなかった。それに初めて気付いて、非常にまずいことだと思った」

 

これまで周縁から日本を、東京を見てきた構図を転換させた今回の「東京」は、とりもなおさず中央の視点を逆照射する行為でもあった。

 

では権力が集中する中央「東京」はどう映ったのか。東京はコロナ禍で変わったのか。

 

「大枠では何も変わっていないね。いかに変わりようがないかを確認することになった。個々人の生活環境は変わったんだろうけど」。「神楽坂」という作品は、新型コロナでリモートワークする父親が子どもを連れて出てきた一瞬を切り取ったものか。

 

そこに権力の中枢の姿はあったか。「権力や政治、経済、メディアの姿は映りはしないね。ただ目の前の、撮りたいものを撮っている、言い訳する必要はないのにね」。そう振り返る。

 

国会前の検察庁法改正反対のデモを切り取った作品では、市民らは人との間隔をあけて座っている。「ツイッターのデモと同時並行して行われていたのに人の少なさに驚いた。左派ほど今回のコロナで神経質になっていた。リベラルな市民が緊急事態宣言を求める議論には違和感があった。サヨクが人権問題で弱体化したという、その異様さを感じた」と印象を語る。

 

隣のページでは警察が集会に備えて道路に鉄柵を設置し始めるシーンが納めてある。「警察がガツンガツン鉄柵を置いていく。これは辺野古を思い出して腹立たしくなった」

 

閉鎖された上野恩賜公園の桜並木や人のいないJR高輪ゲートウェイ駅、間隔をあけて並ぶ東京ディズニーランド入り口、中国人の来店を断る中華料理店―。コロナ禍でも生きる東京の人々の暮らしを記録している。

 

◇    ◇    ◇    ◇

 

写真集は160ページ、時系列順に東京の風景計142点をを収録。写真展を東京都港区赤坂の「山崎文庫」で9月26日まで開催。

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