「金メダルは狙っていたけれど、(銀は)自分らしい位置かな。持てる力を出しきれた」
爽やかな笑顔でそう答えたのは、ノルディック複合個人・ノーマルヒルで銀メダルに輝いた渡部暁斗選手(25)。かつて荻原健司氏師(44)らの活躍で日本のお家芸と言われていた複合も、ルール改正などもあって近年は低迷。20年ぶりのメダル獲得に日本が沸いた。
暁斗には3学年下で、今回の五輪にも出場した弟・善斗(22)がいる。兄の背中を追うようにジャンプを始めた善斗を「暁斗にとっては弟というよりライバル」と語るのは、白馬高校スキー部で彼らを指導した清水一郎先生だ。
「兄弟両方とも高いレベルですが、もともとは善斗のほうがジャンプの才能がありました。暁斗自身も、そのことは感じていたと思いますね」
兄弟の性格も異なるという。やはり兄弟が指導を仰いだ早稲田大学スキー部の倉田秀道監督いわく、
「暁斗はとにかくストイック。何気ない練習でも黙々と近寄りがたい雰囲気でこなすことも多かったですね。日常生活でもあらかじめタイムスケジュールを決めて行動して、寮の部屋もキレイ。天才肌の善斗は練習の準備なんかもいつもギリギリ。それに、人を笑わせようとしたり、人気者タイプでした」
いちばん身近な存在が、暁斗にとって競技へのモチベーションの源泉となっていた。たゆまぬ努力を続け、暁斗はジャンプに比べ日本人には不利とされてきたクロスカントリーでも外国勢と戦えるまでに成長。本番では、複合個人・ノーマルヒルの後半で、金メダルのフレンツェル(ドイツ)と激しいデットヒートを展開した。
「一時期、暁斗が競技生活に迷いをみせていたことがあるんです。そこを突き抜けたのは、善斗の存在があったからでしょう。立ち向かってくる弟に『負けたくない』という思いを強く感じました」(白馬高で渡部兄弟を指導した本田真先生)
努力家の兄の才能開花、そして快挙の陰には12歳からの14年間におよぶ兄弟間の内なる対決があった。「キング・オブ・スキー」の称号。その座を目指して、渡部兄弟が切磋琢磨する日々はまだまだ続いていく。