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(写真:アフロ)

 

「チームパシュートでは、縦一列になり、一糸乱れぬフォーメーションが組めるかどうかが鍵。先頭の選手が風よけになりますが、30cmでも隊列がズレると、後ろの選手が風の影響を受けてしまう。それぞれの体格の差、ストロークの違いなど、かなり滑りこんで、チームとして調整し、3人でリズムを合わせないと結果が出せない競技です」(スポーツジャーナリストの折山淑美さん)

 

平昌五輪に初めて姉妹そろって出場する、スピードスケート・女子チームパシュートの高木菜那選手(25)と美帆選手(23)。チームパシュートは、3人で1チームを編成。先頭の選手が入れ代わりながらチームで滑り、最後にゴールした選手の記録で競い合う。

 

ふたりは、’17年12月8日、米国ソルトレークシティで行われたW杯第4戦女子チームパシュートのメンバーとして滑走。世界記録を更新し、優勝している。11月10日のW杯オランダ大会以来、日本の女子チームパシュートは、わずか1カ月で3度も世界記録を塗り替え、一躍、平昌五輪の金メダル候補に躍り出た。そのどのレースでも、チームメンバーとして滑ったのが高木姉妹だった。

 

8年前のバンクーバー五輪は、中学生だった美帆が代表入り。4年前のソチ五輪は、菜那だけが出場している。姉妹なら、リズムを合わせる点で有利に思える。しかし、菜那は身長155cm、美帆は164cmと体格差があり、おまけに性格は正反対。姉妹が通った帯広南商業高校スケート部の東出俊一監督はこう語る。

 

「負けず嫌いで、勝負にこだわる闘争心が誰よりも強かったのが菜那。美帆は、さばさばした性格です」(東出監督)

 

感情をストレートに表現する正直すぎる姉と、常に飄々として、一人で努力し続ける真面目な妹。美帆のコーチとしてバンクーバーに帯同した、中学時代の姉妹を指導した櫻井知克士教諭は、美帆の才能を絶賛する。

 

「美帆はまさに“神の子”です。自分で課題を持ち、一つ一つ解決していくことに集中する、努力する天才なんです」(櫻井先生)

 

天才は肌の美帆は、常に自分自身と向き合ってきた。東出監督も言う。

 

「美帆には、負けても、ひとりで自分の問題をみつけて解決していく力がある。そこには誰かに勝ちたいとか、負けたくないという気持ちはありません。いい滑りをしっかり実践しようということだけ考えて、滑れる子です。だから、嫉妬心をむき出しにする姉に対しても、美帆は、『どうと思ったことは一度もない』と、言う。それが正直な気持ちだったのでしょう」(東出監督)

 

高校時代の美帆は、国内では敵なし。世界ジュニアでも2連覇を達成している。そして’13年12月、ソチ五輪の代表選考会が開かれた。美帆は大学1年生。しかし、周囲の期待をよそに、競技で結果を出せなかった。それでも、代表選手に選ばれる可能性はゼロではなかったが--。

 

五輪代表を発表する会議室で、名前を呼ばれたのは、菜那の方だった。美帆の名前は呼ばれなかった。東出監督はテレビでその様子を見ていた。

 

「菜那が、代表に選出された挨拶をするために、美帆の横を通り過ぎたときでした。美帆がすごい顔で姉を見上げたんです。これまで見せたことのない、ライバルを見つめる顔でした。あのとき美帆は『こいつに勝ちたい』と、初めて思ったんじゃないですかね」(東出監督)

 

そのころの自分を振り返り、美帆は「いちばん近くで競技を続けてきた姉の“五輪に出たい”という強い思いに、気持ちの差は行動にも表れるんじゃないかと、自分の甘さを省みた」と、話している。

 

ソチ五輪落選は、美帆にとって初めての挫折だった。しかし、彼女はそれを力に変え、さらに大きく成長している。

 

平昌五輪代表選考会では、1,000m2位、1,500mと3,000m優勝と、圧倒的な強さを見せた。1,500mでは、国内最高、リンク記録も出している。

 

「内に秘めるタイプだった美帆が、今季は『最高の舞台で、最高のガッツポーズがしたい』と答えているのを聞き、ずいぶん闘争心を出すようになったなと感じました」

 

姉妹の父・愛徳さん(60)はそう目を細める。

 

「『いい色のメダルを狙う』とも話していて。そんなことを言うのは菜那で、美帆のタイプじゃないんですけどね。姉妹それぞれ微妙に足りない部分を、姉妹で補い合って、成長してくれたらいいですね」(愛徳さん)