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「もしかしたら、アイスダンスやるかもしれません。もうすぐ決断します」

 

今年6月、大阪のレストランで、まるでそうすることが当り前だったかのようなごくごく自然な表情で“大ちゃん”はそう明かした。突然の告白に、関西テレビのプロデューサーの居川大輔さんは心底驚いたが、同時にこう思った。

 

――大ちゃんらしい。彼はまだ挑戦しようとしているんだ。

 

12月19日に始まる全日本選手権で、男子シングル選手としてのキャリアにピリオドを打とうとしている高橋大輔選手(33)。13年にわたって密着取材を行い、それをまとめた『誰も知らない高橋大輔』(KADOKAWA)を出版した居川さんが、高橋との日々を振り返った。

 

初めて高橋に会ったのは、’06年のトリノ五輪で、8位入賞を果たした直後だった。だが、話題の中心は日本フィギュア初の金メダルに輝いた荒川静香さん(37)。まだ男子フィギュアの認知度は低かった時代だ。

 

「関西テレビ主催でアイスショーをやることになり、盛り上げるために出演者を密着取材することになったんです。私が求められたのは、高橋大輔の取材。妻に、『俺は野球担当やのに、フィギュアって……女子のスポーツやし』と、愚痴るほど何の知識もなかったんです(笑)」

 

当時の高橋の見た目は、“今どきの若者”。「密着取材なんて嫌がられているんじゃないか」という思いとともに始まった取材だったが、その不安はすぐに裏切られることになる。初の取材場所は、当時、彼が拠点にしていた大阪の「臨海スポーツセンター」だった。

 

「アスリートというより関西の大学生のお兄ちゃんという感じ。リンクでは小中学生の子や保護者に『大ちゃん、大ちゃん』と、笑顔でいじられていました」

 

最初に抱いた親しみやすさは変わることはなかった。

 

「米国ニュージャージーの合宿に同行したときも『寒い、寒い』と愚痴ったり、『昨日、キーマカレー作ったんですよ』とか言うんです。大人は、カレーを作ったことをわざわざ人には伝えないでしょ(笑)」

 

意外な一面にも気づいた。インタビュー中に、よく髪を触る高橋。端正な顔立ちも相まって、ナルシストと見られることが多いのだが……。

 

「彼はコンプレックスの塊なんですよ。自分がカッコわるいんじゃないかと常に思っている。よく『髪形変じゃないですか?』『服おかしくないかな?』と聞かれることもあります。だから髪を触るんです」

 

人懐っこいけれど、すこしシャイな好青年。居川さんは高橋のことがすぐ好きになった。

 

最初は“高橋選手”と呼んでいたが、いつしか“大ちゃん”と呼ぶように。だが、リンクの外では気さくな顔を見せる彼も、氷の上に立つと一変する。

 

このころの高橋は、長光歌子コーチと、ニコライ・モロゾフコーチの指導のもとで、まさに伸び盛り。彼の成長とともに、男子フィギュアへの注目度も上がっていく。

 

「’06年の全日本選手権で高橋選手は2連覇を果たすんですが、彼の素晴らしい演技にもかかわらず、観客席には空席があった。でも、年が明け、東京で行われた世界選手権では、東京体育館は超満員に。甲子園でも聞いたことがないような歓声でした」

 

ここで高橋は日本男子初の世界選手権銀メダルに輝く。そして、’10年のバンクーバー五輪で、日本男子初の銅メダルを獲得。居川さんも現地でその様子を見守った。

 

「銅メダル獲得後、独占インタビューをしました。現地のメディアセンターに聖火があって、それを目にした彼は「聖火っていいですね。4年前の聖火は記憶にないけど、この聖火はずっと忘れないと思う」と、私が質問をする前から話し始めた。どんなインタビューよりも、本人の心の中からあふれ出た声が聞けた瞬間だったと思います」

 

「女性自身」2020年1月1日・7日・14日号 掲載

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