「普通の可愛らしい女の子でね、昔からとっても聞き分けの良い子でした。身長は中学のなかごろから伸びだしてね。だから小学校の時は、本当にどこにでもいる普通の女の子でしたよ」
こう語るのは柔道女子70kg級で、金メダルを獲得した新井千鶴選手(27)の祖父だ。
7月28日の金メダル獲得後のインタビューで、「本当に家族が一番の味方ですし、どんな時も千鶴は強いと言い続けてくれたので、両親、兄をはじめ、たくさんの方に感謝の気持ちでいっぱいです」と涙ながらに語っていた新井。“一番の味方”である祖父は彼女の成長を見守ってきた。
「近くの中学校の裏に、以前柔道をやっていた接骨院の先生がいてね。その先生の下で千鶴のお兄ちゃんが先に、柔道を始めたんです。千鶴が5歳の時だったのかな。お兄ちゃんの送り迎えについていった時に、先生が冗談めかして、『お嬢ちゃんもやるか?』って、声をかけたらしいんですよ。
そしたら、『うん、やる!』って言いだして……。5歳じゃ早いだろうからその時は、『小学校にあがるまでは待って』とママに言われていました。翌年、小学校へあがると、『ちいたんも行くよ!』って、自ら言い出したそうですわ(笑)」
試合中は鬼気迫る表情で戦っていた新井だが、祖父は優しい一面も教えてくれた。
「小学2年生のころに通学路で、捨て猫がカラスに襲われていたそうです。千鶴はカラスを追い払って、子猫を抱いてうちに連れて帰ってきて『私が飼うんだ!』って。彼女の母親は最初、嫌がったらしいんですけど、真剣な表情で訴えるから根負けして……。
『飼ってもいいよ。でも自分で拾ってきたんだから、ちゃんと面倒見るんだよ』と。するとあの子は『うん、わかった!』といって、その日からずっと猫をかわいがって育てました。 あの子に助けられてからはや20年。その猫はまだ生きていますよ」
また“祖父孝行”な一面も……。
「大会で優勝するたびに、『じいちゃんにかけてほしい』と金メダルを持ってきてくれます。 きっと五輪のメダルも持ってきてくれるでしょう。 この年で孫の金メダルを見られるなんて、これほどうれしいことはないですよ(笑)」
話を聞かせてくれた新井の祖父の顔は、“金メダル”のように輝いていた――。