■ブルペンで一緒に投げている翔平とダルが侍ジャパンをここまで導いたと鶴岡さんは感慨深く
「誰もが名前を知っている選手と対戦することになるけど、そういうチームに勝つために、今、ここにいるメンバーを選んだ。俺は絶対に勝てると信じてる。だから、自信を持ってやってくれ」
いよいよアメリカとの決勝当日。先発メンバー発表のタイミングで、栗山監督が選手らに喝を入れる場面があった。鶴岡さんは、
「さすがに最後の大勝負を前に緊張しているなか、決勝直前に監督からこの話があって、みんな、『おっしゃー、行くゾ!』と、改めて気持ちが引き締まりました」
大谷選手の、あの「憧れるのをやめましょう」のスピーチがあったのは、このあとだ。
試合は、長い不振から復活を遂げた主砲・村上宗隆選手(23)の初ホームランなどもあり、日本は7回までに3-1とリードを広げ、優位に進んでいた。ここで投手陣の継投で逃げ切りたいという栗山監督の采配が光る。そしてブルペンには、あの大谷、ダルビッシュの両投手が一緒に投げるというWBCならではの光景があった。
「日ハム時代に球を受けていた二人でした。ダルとは長かったし、翔平とは1年くらい。現役引退した僕には、二人とも“テレビの向こう側の人”だったから(笑)、彼らが一緒に投げているのは日本の野球界の最高峰の状況で、ああ、この二人が侍ジャパンをここまで導いたんだなと、感慨深いものがありました」
ちょうど10年前の大谷選手のルーキー時代、その初勝利のときも球を受けていた鶴岡さんは、大谷選手の人柄について。
「あのままの人間です。礼儀正しくて、ストイックで、ちゃめっ気もあって。もともと能力のある人間が、食べることも、寝ることも、すべての時間を野球のために使っているんですから。
加えて、野球を心から楽しんでるでしょう。イタリア戦のまさかのセーフティバントとか。その姿に、誰もが感動するんでしょうね」 さて、再び決勝の場面。自身の出番を前に、ベンチとブルペンを何度も往復する大谷選手の姿はテレビでも中継されたとおり。ブルペンにいた鶴岡さんは、
「彼自身、中継ぎの経験も最近はなく、ペース配分なども考えながら歩いていたのでは。
特にあの球場のブルペンへの距離は100mもありますから、そこを黙々と往復するときの気持ち、背負っているものは、もう翔平にしかわからない……」
そして、大谷選手がトラウト選手から三振を奪った瞬間、侍ジャパンは14年ぶりの世界一に返り咲いたのだった。