■14年前のWBCではパウダーでいたずらをしていたダル。河野さんと「大人になった」と笑い合う
侍ジャパンは1次ラウンドを全勝。決勝ラウンドはアメリカで、さらに快進撃を続けていく。
ダルビッシュ投手については、14年前の第2回WBCでも一緒だった河野さんには、忘れられない思い出がある。
「彼に、いたずらされたんです。トレーニングの施術に使うベビーパウダーを、私のかばんの中にバーッとぶちまけられました。わー、もうダルにやられた、って(笑)」
今回、久しぶりに顔を合わせたときに、その話になった。
「河野さん、僕、いたずらなんてしましたっけ?」
「えっ、忘れたの? かばんにベビーパウダーを……」
「あーっ、あれね(笑)。じゃ、今回もやろう!」
懐かしい、いたずらっ子のような表情に戻るダルビッシュ投手だったが、
「憎めない男で、相変わらずだなと思うんですが、宮崎の初日から見ていたら、確実に彼、変わっていたんです。
私は第1回、2回にも帯同しましたが、このときはイチロー選手が『オレを見ろ』という感じで、またそれが自然であり誰もが認めるところで、彼を中心にチームもまとまっていった」
その役割を、今回はダルビッシュ投手が、彼なりのやり方で担っていたのだ。
「ダルは、正直、自分の調子はそんなによくなかったのですが、それよりもチーム全体を考えて行動していました」
連戦の間も「以前と比べて、今回のチームはどうですか」と何度も尋ねられ、河野さんはこう答えた。
「いや、ダルのおかげだよ。若い選手のもとへも駆け寄って、自分も学びたいという姿勢を見せてくれる。それが、いかに日本の選手とメジャー選手との間の垣根を取り払ってくれているか。
ダルも、ようやくパウダーをかけたりしない大人になったな」
そう言いながら、二人で笑い合った。
河野さんは、マッサージなどの調整に関する大谷選手との会話で、改めて彼の人間性にふれた思いがしたと話す。再会してまもなくのこと。
「いつも、どういうタイミングで何をやっているのかな。こちらでできることある?」
と尋ねた河野さんに、大谷選手はひょうひょうとした口調で、
「あっ、だいじょうぶです。なんにもやんないんです。登板のとき、背中だけお願いするかもしれません。
日ハム時代は、ルーティンとして僕もやっていました。ですが、試合直前にマッサージをすると、気持ち的にも『今から行くぞ』というのがそがれる気がして、マイナスな感じがするんです」
河野さんも、その考えにはまったく同感だった。
「私自身、日本球界のやり方でもある投手の登板前にマッサージで調整するという慣習を変えたいと思っていましたから、そこは大いに共感して、大谷選手が投げる前に気になる背中の一部分だけ、ある治療機器を使って調整をしました。
つくづく大谷選手というのは、トレーニングでもなんでも、自分で考え抜いて、それを実直に行っているんだと思いました」
決勝の場面。いよいよ9回表。大谷選手と盟友のマイク・トラウト選手(31)の一騎打ちの場面。河野さんは、
「現場にいても、もう漫画としか言いようのない劇的な場面でした。
それまでも大谷選手のすごいのは、ベンチを出るときに監督のほうに向かって、『ヒット打ってきます!』『ホームラン打ってきます!』と言って出ていき、その数分後、本当にツーベースを打って、ベンチに向かって両手を上げて仲間を鼓舞している。
鋭い野球勘はもちろん、ここまでくると、天から与えられたものがあるのかなと思います。アメリカ式には、“ギフト”っていいますね。彼はそのギフトを、さらに努力で最大限に生かしているのだと感じました」
大谷選手がトラウト選手から三振を奪った瞬間、侍ジャパンは14年ぶりの世界一に輝いた。