侍ジャパンの知られざる奮闘34日間 トレーナー・河野さんが明かす翔平、ダルビッシュの素顔
画像を見る 22年11月下旬、全身真っ黒なトレーニング姿の大谷と通訳の水原氏

 

■14年前のWBCではパウダーでいたずらをしていたダル。河野さんと「大人になった」と笑い合う

 

侍ジャパンは1次ラウンドを全勝。決勝ラウンドはアメリカで、さらに快進撃を続けていく。

 

ダルビッシュ投手については、14年前の第2回WBCでも一緒だった河野さんには、忘れられない思い出がある。

 

「彼に、いたずらされたんです。トレーニングの施術に使うベビーパウダーを、私のかばんの中にバーッとぶちまけられました。わー、もうダルにやられた、って(笑)」

 

今回、久しぶりに顔を合わせたときに、その話になった。

 

「河野さん、僕、いたずらなんてしましたっけ?」
「えっ、忘れたの? かばんにベビーパウダーを……」
「あーっ、あれね(笑)。じゃ、今回もやろう!」

 

懐かしい、いたずらっ子のような表情に戻るダルビッシュ投手だったが、

 

「憎めない男で、相変わらずだなと思うんですが、宮崎の初日から見ていたら、確実に彼、変わっていたんです。

 

私は第1回、2回にも帯同しましたが、このときはイチロー選手が『オレを見ろ』という感じで、またそれが自然であり誰もが認めるところで、彼を中心にチームもまとまっていった」

 

その役割を、今回はダルビッシュ投手が、彼なりのやり方で担っていたのだ。

 

「ダルは、正直、自分の調子はそんなによくなかったのですが、それよりもチーム全体を考えて行動していました」

 

連戦の間も「以前と比べて、今回のチームはどうですか」と何度も尋ねられ、河野さんはこう答えた。

 

「いや、ダルのおかげだよ。若い選手のもとへも駆け寄って、自分も学びたいという姿勢を見せてくれる。それが、いかに日本の選手とメジャー選手との間の垣根を取り払ってくれているか。

 

ダルも、ようやくパウダーをかけたりしない大人になったな」

 

そう言いながら、二人で笑い合った。

 

河野さんは、マッサージなどの調整に関する大谷選手との会話で、改めて彼の人間性にふれた思いがしたと話す。再会してまもなくのこと。

 

「いつも、どういうタイミングで何をやっているのかな。こちらでできることある?」

 

と尋ねた河野さんに、大谷選手はひょうひょうとした口調で、

 

「あっ、だいじょうぶです。なんにもやんないんです。登板のとき、背中だけお願いするかもしれません。

 

日ハム時代は、ルーティンとして僕もやっていました。ですが、試合直前にマッサージをすると、気持ち的にも『今から行くぞ』というのがそがれる気がして、マイナスな感じがするんです」

 

河野さんも、その考えにはまったく同感だった。

 

「私自身、日本球界のやり方でもある投手の登板前にマッサージで調整するという慣習を変えたいと思っていましたから、そこは大いに共感して、大谷選手が投げる前に気になる背中の一部分だけ、ある治療機器を使って調整をしました。

 

つくづく大谷選手というのは、トレーニングでもなんでも、自分で考え抜いて、それを実直に行っているんだと思いました」

 

決勝の場面。いよいよ9回表。大谷選手と盟友のマイク・トラウト選手(31)の一騎打ちの場面。河野さんは、

 

「現場にいても、もう漫画としか言いようのない劇的な場面でした。

 

それまでも大谷選手のすごいのは、ベンチを出るときに監督のほうに向かって、『ヒット打ってきます!』『ホームラン打ってきます!』と言って出ていき、その数分後、本当にツーベースを打って、ベンチに向かって両手を上げて仲間を鼓舞している。

 

鋭い野球勘はもちろん、ここまでくると、天から与えられたものがあるのかなと思います。アメリカ式には、“ギフト”っていいますね。彼はそのギフトを、さらに努力で最大限に生かしているのだと感じました」

 

大谷選手がトラウト選手から三振を奪った瞬間、侍ジャパンは14年ぶりの世界一に輝いた。

 

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