「私たちは、ふだん無意識に呼吸をしていますが、口で吸うか、鼻で吸うかにより、その質は大きく異なります。たくさん酸素を取り込める呼吸が、“健康にいい呼吸”といえるでしょう」
こう話すのは、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫先生。大谷先生は、呼吸器内科の専門家としてこれまで数多くの患者を診てきた。そんな大谷先生が、懸念しているのが、口呼吸をしている人が年々増えているということだ。
「鼻呼吸では、鼻毛や鼻腔の粘膜が、不衛生な外気やウイルス、細菌、花粉、ほこり、PM2.5といった異物の侵入をブロックしてくれます。また、冷たく乾いた外気を、適度に温めたり、湿らせてくれたりもするのです」
次に扁桃が異物をブロック、さらに、線毛(※気道や肺にある毛のようになっている組織)が異物をキャッチと、フィルター機能が何重にも働いている。
「しかし口で呼吸をすると、まず鼻で異物をブロックすることができなくなりますし、乾燥のために線毛の働きが弱くなります。フィルター機能が十分に働かないために、異物を体内に取り入れてしまうことになるのです。その結果、花粉症やアレルギー性鼻炎や、ほかのさまざまな疾患を引き起こしてしまいます」
口呼吸をすると、口の中が乾きやすくなり、虫歯や歯周病、口臭の原因にもなる。歯周病の原因菌は動脈硬化を引き起こすなど、全身へ悪影響を及ぼす。さらに睡眠中の口呼吸は、大きないびきの原因となり、睡眠時無呼吸症候群のリスクも高める。睡眠時無呼吸症候群は、高血圧、心臓病、糖尿病など、さまざまな合併症を招くという。また、鼻呼吸に比べ、口呼吸は息が浅くなる。
「息が浅いと体は十分に酸素を取り込めず、体の末端にまで、酸素がゆきわたりません。その結果、イライラしたり、頭痛や肩こり、冷え性などが起こりやすくなります」
大谷先生によれば、口呼吸で浅い呼吸が続くことは酸素不足の状態を続けているようなもので、“万病のもと”なのだという。
「逆に鼻呼吸により、息が深くなると、体の隅々まで酸素がゆきわたり、免疫力もアップします。さらに鼻呼吸で深い呼吸を心がけることで腹筋や横隔膜が鍛えられ、姿勢がよくなります。正しい姿勢はスタイルもよく見せてくれますから、一石何鳥にもなりますね」
私たちは通常、1分間に15回、1日に2万回、一生となると実に6億回の呼吸をするという。無意識に行っている呼吸の一回一回が、実は、私たちの体調を左右しているともいえる。
「最近は、スマホやパソコンを長時間使う人が増えていますよね。こうした人たちは前傾姿勢になりがちです。しかし前傾姿勢だと、胸が圧迫され、口呼吸で浅い呼吸になりやすくなってしまうので要注意です」
ゆっくり息を吐いて、鼻から吸う。呼吸改善で“体も心も健康な春”を目指そう!