国の天然記念物のジュゴン=2008年3月、名護市嘉陽沖(ヘリから撮影)
11月末に開催された日本サンゴ礁学会第20回大会で、同会会員で普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境監視等委員会の委員でもある識者らが、県内海域に生息するジュゴンの保護対策として「外部からの導入を検討することが必要」と提言していたことが16日までに分かった。識者らは5日に防衛省であった環境監視等委員会の会合でも他の委員に資料を配布し、同様の説明をしていた。トキやオオカミの繁殖事例とジュゴンを同列に扱うことについて、海洋生態学に詳しい識者は提言に対し「短絡的で根本的解決には到底至らない」と指摘している。
提言は「琉球列島におけるジュゴン個体数の減少と人間活動」と題した報告書の中でまとめられていた。サンゴ礁学会としての公式見解ではなく、学会内の発表となっている。
提言をまとめたのはサンゴ礁学会会員を含む5人で、うち4人は環境監視等委員会の委員も務める。提言者の一人、京都大フィールド科学教育研究センターの荒井修亮氏は「トキも中国からの導入で繁殖できたし、海外でもオオカミやヒョウなど成功事例はある」と述べ、導入案の有効性を主張する。また環境監視等委員会の目的は「あくまで工事を中止するためではなく、いかに最大限の環境配慮をするか検討するものだ」と話した。
報告書で識者らはジュゴンの個体数が激減し、現在は本島北部にしか生息していない理由の一因に、1970年代以降に加速した本島中南部沿岸での開発行為を挙げていた。海洋生態学に精通する向井宏北海道大名誉教授は「委員は開発行為がジュゴンに与える影響を熟知した上で、埋め立て工事にお墨付きを与えるつもりか」と述べ、移設ありきの保護措置の提言を批判した。
また向井名誉教授はジュゴンが好んで利用する海草藻場は限定的で、その重要な地点の一つが辺野古・大浦湾だと指摘。「いくら藻場を植え付けたり海外からジュゴンを連れて来たりしたとしても、そこに豊かな環境がなければいずれは滅びるのは明白だ」と述べ、科学的根拠や実効性の乏しい助言を呈す環境監視等委員会の資質に疑問を呈した。
今回の提言について、沖縄防衛局は「あくまで委員の先生方の見解であり、防衛局としては今後も指導を受けながら勉強したい」と話している。(当銘千絵)