「暦の上では春といっても、まだまだ寒さが続く季節です。こんなときは、お風呂でほっと一息つきたいもの。ゆず湯や菖蒲湯など、日本には古来よりさまざまな『季節湯』がありますが、単に四季を愛でたり、ゲンを担ぐためだけでなく、理にかなった健康効果があったのです」

 

そう話すのは、順天堂大学教授で自律神経研究の第一人者・小林弘幸先生。今回小林先生の研究室が発見したのは、もっともメジャーな季節湯のひとつ「菖蒲湯」に使われる、菖蒲のチカラ。日本では「菖蒲」の言葉が「尚武」(武を重んじる)に通じるところから、端午の節句に菖蒲湯に入るようになった。

 

「マウスを使った実験で、菖蒲にはうつや不安を軽減させ、まさに『勝負強くさせる』効能があることが、明らかになりました。実験では、マウスを菖蒲の精油が入った箱に入れ、60分間香りを嗅がせたあとの反応の変化を調べました」

 

ひとつは、不安に対する実験。動物は本能的に高いところを避けるが、これは不安感のなせる業。そこで、菖蒲の香りを嗅がせたマウスと、そうでないマウスが高い場所に出入りする回数や時間を数値化することで、菖蒲の抗不安作用を調べた。

 

「すると、菖蒲を嗅いだマウスはそうでないマウスに比べ、高いところを恐れずに、積極的に行く傾向が見られたのです。このことから、菖蒲には、抗不安作用があると結論づけました」

 

さらに、うつ症状に対する効果も測定。試験装置内でマウスを逆さづりにすると、当然マウスはそこから逃れようと暴れるが、その後、暴れるのをやめ、動かなくなる「無動状態」が認められる。この無動状態とは、逃げることを諦めた「無気力状態」、つまり抑うつ状態なのだ。

 

「そこで、菖蒲を嗅がせたマウスとそうでないマウスとで、この無動状態の長さを比較。すると、菖蒲を嗅いだマウスのほうが抑うつ状態に陥る時間が短くなったのです。なお、菖蒲には、ラベンダーやサイプレス(鎮痛効果のあるアロマオイルで、ヒノキに似た香り)と比べても、より、睡眠時間を長くする効果があることも、実験で明らかになっています」

 

5月に菖蒲湯に入ることは、ゲン担ぎのためだけでなく、5月病の解消という点でも理にかなっているそう。端午の節句はまだ先だが、乾燥菖蒲ならインターネットなどで通年入手可能。新年度を目前に、たまった疲れを菖蒲で癒してみてはいかが?

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