テレビを見ながら、スマホを見ながら……なんとも「ながら」が多い私たちの生活。脳のエネルギーの6割が浪費されているとか。1日1分の「瞑想」で脳を休ませ、落ち着かせて!
「スマホやSNSの普及により、この10年間で情報量は千倍近くになっているといわれています。こんなに情報過多だと、脳が情報を処理しきれずに、疲弊してしまいます。私のもとにも、原因不明の疲労や体調不良で来られる方が急増していますが、脳疲労が原因と思われる方が非常に多いです」
こう話すのは、臨済宗建長寺派林香寺の住職で精神科・心療内科医でもある川野泰周先生だ。
私たちは、起きている半分くらいの時間を、「マインドワンダリング(=心ここにあらず)」という状態で過ごしているのだという。これは、テレビやスマホを見ながら食事をする、歩きスマホをするなど、複数のことを同時にするときに起こる状態だ。
「マインドワンダリングのとき、私たちの脳の状態はDMN(デフォルトモードネットワーク)といって、目の前の物事以外にも注意力を使っている状態なのです。このDMNによって、私たちは脳のエネルギーのなんと6割以上を消費しているともいわれます」(川野先生・以下同)
つまり、1日の大半は脳のエネルギーをダダ漏れ状態にしているようなもの。これでは、脳が疲労してしまうのも無理はない。脳疲労は日常業務にも影響するが、慢性的に蓄積すると、自律神経失調症、うつ病などの疾患にもつながる可能性も指摘されている。
川野先生は、SNSの弊害も指摘する。
「SNSをし続けていると、他人の“リア充”生活を見続けることとなり、人と比べて自分を卑下してしまうという負のループに陥りがちです。ここでネガティブに陥った自分を無理にポジティブに納得させようとしても、脳が拒否反応を起こすだけ。かえって逆効果です」
脳の疲労を軽くするため、川野先生が提案するのが「瞑想」。とはいっても、山や寺にこもったり、難しいことをする必要はなく、読者が簡単に取り組める日常生活の中でできる「ずぼら瞑想」だ。
「基本的には『今この瞬間に体験していることだけに注意を払う』『善しあしなどの判断をしない』ことです。たとえば、何かを『悪い』と判断してしまうと、その反対の『よい』ものにしがみつこうとする“執着”が生まれてしまいます。単純に、生じた感覚を“観察”するだけ。ひとつひとつの行いから気づきが生じるので、それを受け入れるのです。積み重ねていくうちに自然と心に余裕ができ、脳の疲れも取れていくはずです」
いくつかエクササイズを挙げてみよう。
【1】納豆を混ぜる
強くなる粘りを手にじっくり感じながら、丁寧に、ただ混ぜよう。
「混ぜれば混ぜるほどグルタミン酸が溶け出しますので、おいしさもアップします。卵を混ぜるときも同様に」
【2】文字を書く、円を描く
書くものはボールペンでも筆ペンでも構わない。
「大事に紙を用意し、ゆっくり落ち着いて字を書いたり、円を描くという行為は、とても気持ちがいいものです。このとき、『うまく書けなかった』などの“判断”をしないように。今日の自分の状態はどうか、円は丸く描けたか、ゆがんだかといった事実を受け入れるだけです」
【3】キャベツの千切りをする
「今日の包丁の切れ味はどうか、自分の包丁さばきはどうか、キャベツのどの部分を切っているのかなど、手の感覚も“観察” しながら切ってみましょう」
大根をおろしたり、ねぎを刻むときも同様に。
たとえ1日1分でも、こうしたエクササイズを積み重ねていけば、脳の疲れが取れて、心が乱れにくくなるという。早速、日々の生活に取り入れてみよう!