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公設市場の「持ち上げ」を体験してみた。→美味に気分アゲアゲだった。

 

“県民の台所”としても観光地としても長年親しまれてきた那覇市の第一牧志公設市場。老朽化による建て替えが決まり、現市場での営業は16日で終わる。

 

公設市場の名物といえば、1階の店舗で買った食材を2階の食堂で料理してもらえる「持ち上げ」というシステムだ。「今の市場があるうちに持ち上げをしてみたい!」。腹をすかせた取材班が5月下旬、市場を訪れた。早速、食材調達に出発だ!

 

まずは海の幸

 

最初に訪れたのは「与那嶺鮮魚」。「オススメは何ですか?」。いさ記者が店頭に立つ与那嶺治美さん(63)さんに聞いた。

 

「オススメはやっぱりアカマチですね。三大高級魚ですから」。与那嶺さんが氷に埋もれていた赤くて尾びれの長い魚を引っ張り出した。「刺し身にしてもマース煮にしてもおいしいですよ」

 

その横には鮮やかな青い魚が並ぶ。たぶちゃん記者の「これはイラブチャー?」との問い掛けに与那嶺さんは「そう、これはブダイ。イラブチャー。あんかけにするとおいしいですよ。観光のお客さんはインパクト重視で買う人が多いですね」。取材班は三大高級魚に若干心が揺れながらも、腹びれがオレンジと緑に光るイラブチャーを選んだ。半分は刺し身、半分はあんかけにしよう。

 

「貝はどうですか」。たかひろ記者が与那嶺さんに聞くと、男性のこぶし大はありそうなヤコウガイを水槽から取り出した。こちらは刺し身とニンニクバター焼きに決定。もう1品はおなじみのグルクンを唐揚げにすることにした。

 

奥の調理場で魚をさばいてもらっている間、気になる物体が目に入った。茶色くて石のようだがよく見ると口のようなものがぱくぱく。「あ、動いた。これなんだろう」。記者たちが興味を示し始めると、与那嶺さんはうれしそうに「これは当店のオススメなんです」と語り“物体”を持ち上げた。

 

よく見ると大きな背びれがあり、丸くて大きな目と口もゆっくり動き出した。背びれに毒があるオニダルマオコゼだ。迫力満点の見た目だが「刺し身、唐揚げ、みそ汁、どれも最高!」と絶賛する。

 

ゆんたくしているうちに、舟盛りの器に載った刺し身の盛り合わせが出てきた。注文していないマグロやタコ、海ブドウまであるではないか。「これがうわさに聞く、しーぶん(おまけ)か!」。粋な計らいに心がときめいた。

 

肉も食べたい

 

お次は肉だ。肉の持ち上げはステーキや焼き肉など、時間のかからない調理法に限られている。照光精肉店をのぞいた。店頭に並ぶ肉は、県産豚を丸々1頭分仕入れて、同店の工場で解体したもの。テビチ(豚足)、チマグ(足先)などさまざまな部位が並ぶ。さーねー記者はチラガー(顔の皮)の迫力に少したじろいだ。

 

「持ち上げなら、アグーのステーキですかね」。照屋なつさん(51)がアグーの肩ロースを冷蔵ケースから取り出した。

 

購入した食材を2階の食堂「きらく」の上原祥平店長(34)に手渡し、刺し身の盛り合わせが載ったテーブルで料理が出来上がるのを待つ。まずはヤコウガイのニンニクバター焼き、イラブチャーのあんかけ、グルクンの唐揚げ、そしてアグーのステーキもすぐにできた。

 

「いただきます~」。たぶちゃん記者はまずヤコウガイのニンニクバター焼きに手を伸ばした。「これはビールが飲みたくなる味…!」。ヤコウガイの刺し身もこりこりしておいしい。イラブチャーも新鮮で刺し身はプリプリ、あんかけはフワフワだ。

 

すると、ここでもしーぶんが! 上原さんが創業時からの人気メニュー「田芋団子」を出してくれた。揚げた衣はサクッとしていて、中の田芋はしつこさのない絶妙な甘さだ。「ふふ、うふふ」。おいしさに自然と笑顔になる取材班だった。

 

現市場近くの旧にぎわい広場に建設された仮設市場は7月1日に開業する。新たな市場は現在と同じ場所で2022年度に開業する予定だ。仮設市場や新市場でも持ち上げを楽しもう!

 

「持ち上げ」やってみよう

 

持ち上げが始まった時期ははっきりしないが、当初は個々の店が客の要望に応じてやっていた。

 

那覇市の観光資源をつくりたいという市当局の狙いや、スーパーの増加で遠のいた客足を取り戻したいという事業者の思いから、1990年ごろに市場組合全体で取り組むようになったという。

 

基本的に1グループで3種類まで食材を選べる。食材の代金は1階の店舗で支払い、2階の食堂では1人500円の調理代を支払う仕組みだ。

 

(1)選ぶ
市場1階の店舗で予算などに応じて食材を選ぶ。調理法もお店の人に相談してみよう

 

(2)買う
お店の人との会話も「相対売り」の魅力だ

 

(3)調理
2階の食堂に調理法などを書いた伝票と食材を渡す。どんな料理になるのかな~?

 

(4)完成
刺し身の盛り合わせ、イラブチャーのあんかけ、あぐーのステーキ、ヤコウガイのニンニクバター焼き、グルクンの唐揚げ

 

与那嶺鮮魚 色とりどりの海の幸並ぶ
色とりどりの魚や愛らしい顔つきのアバサー、身の引き締まった貝、カニやエビまで、地元で水揚げされた近海魚が並ぶ与那嶺鮮魚。店を家族で切り盛りする与那嶺治美さん(63)によると、創業から「38年くらい」。

 

豊富な品ぞろえは「年中変わらない」。海外からの観光客も多く訪れるため、中国語で調理法を記したメニュー表も用意している。「魚を蒸す調理法や『黒豆炒め』は台湾とか香港のお客さんから聞いて初めてやりましたよ」と与那嶺さん。

 

観光客だけでなく、県外から訪れた友人を連れて来るウチナーンチュもよく持ち上げをするという。

 

照光精肉店 店名にも愛情たっぷり

照光精肉店は照屋徳助さんと妻の光子さんが始めて創業65年。今は2代目で嫁の照屋なつさん(51)が従業員の山川亜季さん(25)と店に立つ。

 

地元客には行事の際に豚肉の中身(モツ)やソーキ、観光客にはチラガー(顔の皮)が人気だとか。オススメの調理法は「ポン酢か塩こしょう炒め」だ。

 

なつさんは26年前に徳島から嫁ぎ、義母の光子さんらと共に店を切り盛りしてきた。店名の「照光」の由来は照屋の「照」に光子さんの「光」。なつさんは「お義父さんがお義母さんのこと大好きだったからね」と教えてくれた。

 

きらく 先代からの味 受け継ぐ

酢豚や八宝菜など、中華料理のメニューが豊富な食事処「きらく」。創業者の親川元康さん(72)は台湾のホテルで料理人をしていた。沖縄へ戻り1982年に「きらく」を開業した。当時は那覇の市場に品物を売りに来た台湾の人や地元客であふれていたという。

 

持ち上げの定番メニューはイラブチャーなどの魚のあんかけ。素早く調理でき、食材の鮮度を落とすことなく提供できる。店長の上原祥平さん(34)は「仮設市場でも新市場でも、先代から受け継ぐ料理と持ち上げは変わらず続けていく」と語った。
(2019年6月9日 琉球新報掲載)

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