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“おしん”役として10歳で飛び込んだ「朝ドラ」の現場は過酷だった。厳冬の山形の最上川でいかだに乗るシーン。胸まで積雪がある雪道を山の上まで登るシーン。命がけの現場でプロ意識をたたきこまれた。小林綾子のけなげな演技は感動を呼び、最高視聴率62.9%。海外でもイランで視聴率90%を記録するなど大ブームに。その後、留学や離婚を経て役者を続け、今年、100作目の『なつぞら』で朝ドラに戻ってきた――。

 

「『なつぞら』の収録で、初めて山田家のセットに入った瞬間、開拓移民で貧しい生活なんですが、あれ、この場所、どこかで見たことあると思ったんです。囲炉裏があって、むしろが敷いてあって、土間があって……『あ、おしんの家だ!』って。雰囲気が似ていたんですね。また朝ドラの現場に帰ってきたんだなぁと、ひとり、懐かしさに浸っていました」

 

女優の小林綾子さん(47)は、現在、放送中のNHKの連続テレビ小説『なつぞら』に出演中。広瀬すず演じるヒロイン・なつの初恋の相手である天陽(吉沢亮)の母親・山田タミ役を演じている。

 

節目となる朝ドラの100作目で、かつてのヒロインたちが出演していることも話題だが、10歳にして『おしん』で主演をつとめた小林さんにとっては、36年ぶりの朝ドラ復帰作となった。

 

くしくも現在、NHK BSプレミアムでは毎朝、『おしん』と『なつぞら』が続けて放送されている。

 

「再放送で初めて『おしん』を見たという方からも、『おしんちゃん、どうなるの』といった感想をたくさんいただいています」

 

『おしん』人気再来を裏付けるように、再放送にして総集編も何度も放送されているのに加え、8月13日には『アナザーストーリーズ』(NHK BSプレミアム)でおしん特集が組まれたばかりだ。

 

『おしん』は、’83年に放送された朝ドラ31作目。橋田壽賀子さん(94)のオリジナル脚本で、ヒロインは明治、大正、昭和を幾多の困難を乗り越えながら生き抜いた山形の貧しい小作農の娘・谷村しん。小林綾子、田中裕子、乙羽信子の3人がリレー形式でヒロインを演じ、少女時代が小林さんだった。

 

平均視聴率52.6%、最高視聴率62.9%は、いまだ破られていないドラマ史上最高視聴率の金字塔だ。

 

「おしんドローム」なる流行語を生み出した番組は国内で社会現象となっただけでなく、世界73の国と地域で放送され、イランでは最高視聴率90%を超えた。

 

「いつか、朝ドラで母親役を演じてみたい」

 

映像作品や舞台で活躍しながら、40歳を超えたころから、そう語っていた小林さん。

 

「いつか朝ドラの現場に帰りたいという思いは、正直、ずっとありました。私自身、ファンで見続けてもいましたから。きっと、そう願う女優さんは多いと思います。でも、私の場合、たしかに、おしんのイメージが強いですから、使う側も使いにくいだろうなとも思っていたり。ですから、昨年2月に『なつぞら』のオファーをいただいたときは、ああ、やっと朝ドラに帰れるんだ、という思いでした」

 

36年ぶりの朝ドラの現場。出演者の出番が書き込まれた香盤表を見たときには、当時の記憶がよみがえった。

 

「『おしん』では、私は出ずっぱりで、常に自分のところに◯印が付いていました。収録が終わったとき、母が『最初からこんな大変とわかっていたら、お受けしなかったかもしれない』とポロっと言ったのを思い出したり。『なつぞら』では、すずちゃんがその立場。身をもって体験した私としてはやっぱり心配で、『体調、大丈夫?』と聞くと、笑顔で『なんだか私、平気みたいです』って。若さっていいですよね」

 

『おしん』のときとは逆に、若手俳優らを気遣う自分がいる。迷いもあったが、役者を続けてきて、かつての子役がいま、母親を演じるようになっていた。

 

「つくづく、時間がたったんだなぁと思いますね。実生活では母親ではありませんから、その意味でも、芝居の中で子供ができるというのはうれしくて。まして、あんな美しい息子なんて(笑)」

 

小林さんは、子役のとき以来、ずっと大切にしていることがある。

 

「母に、子役時代からずっと言われ続けたのは、『初心を忘れちゃダメよ』ということ。初心とは、私と母にとっては『おしん』での体験です。あの大変な現場を乗り越えて、これから何が起きても、ちょっとやそっとのことじゃ負けないという自信も持てました。今後も、その初心を忘れず、見た人が元気になったり、笑顔になったりするような、心に残る作品に出ていけたらと思います」

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