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感染拡大によって多くの企業や飲食店の営業自粛を招き、日本経済にも大きな打撃を与えている新型コロナウイルス。緊急事態宣言が発令された4月7日の会見で安倍晋三首相は「経済は戦後最大の危機に直面している」と発言するなど、事態は深刻だ。また昨年6月に公表された金融庁のワーキンググループによる“老後資金が2,000万円不足する”という報告書も記憶に新しく、国民の未来への不安は募るばかり。

 

そんななか、老後生活を大きく左右する“厚生年金”が変化の時を迎えようとしている。法改正によって、厚生年金保険、健康保険への加入対象者が拡大する見通しなのだ。今年3月3日、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が閣議決定。同日、厚労省が改正案を国会に提出し、今会期中の成立に向け動いている。

 

加入している会社員や公務員とその家族が老後や障がいを抱えたときなどに、国民年金に加えて受け取ることのできる厚生年金。今回の改正では、主にパート勤務などの短時間労働者の適用条件が変わり、パートでも将来厚生年金が受け取れる人が増えることになる。現行の適用要件は以下だ。

 

・常時従業員501人以上の企業に勤務していること
・週の所定労働時間が20時間以上であること
・月額の賃金が8.8万円以上(年収換算で106万円以上)であること
・学生でないこと
・雇用期間が1年以上見込まれること

 

今回の改正で変わるのは、適用される企業の従業員数。これまでの「501人以上」から、22年10月に「101人以上」、24年10月には「51人以上」と段階的に拡大されていくのだ。厚労省の試算では、「51人以上」の企業に拡大されることで、約65万人のパート労働者が新たに厚生年金や健康保険に適用される見通しだ。加藤勝信厚生労働大臣も、改正法案が閣議決定された後の会見で「被用者年金や医療保険に入られる方を広げることが、短時間労働者の方々の生活や将来の安定にも繋がっていくと、こういう判断であります」と期待をのぞかせていた。

 

しかし今回の改正、年金が増えるというメリットだけではない。厚生年金と健康保険の保険料は企業と労働者の折半となるため、規模が小さい企業の負担が増加する。また経済ジャーナリストの荻原博子さんは国の“もう1つの思惑”についてこう語る。

 

「国としては“より多くの国民に年金を支えさせたい”ということでしょう。年収130万円以下の専業主婦は扶養に入る(=第三号被保険者)ので、お金を払わなくても将来、年金がもらえます。国は、そういう人を劇的に減らしたいんです。主婦がパートに出る場合、(社員数や収入額などの一定条件で)厚生年金に加入しなさいということになれば、保険料をその人からも雇用する会社を通じて、《会社と折半》という形で取ることができるようになります。一方、国民年金は、被保険者が個人で納付する形なので、納めていない人が半分くらいいる(※2018年度で納付者が加入者全体の51.6%)のが現状。しかし、厚生年金なら雇用する会社から確実に徴収できるんです」

 

現役世代の減少は年金制度にとって火急の問題であるようだ。また、パート勤務している主婦や会社員ではないシングルマザーなどの生活にも変化が。適用拡大によって家計に変化が現れるケースもあるようだ。

 

「人によってメリットとデメリットがあります。例えば年収130万円以下の会社員・公務員の配偶者は、これまで自分では保険料を払わなくても将来的に基礎年金だけは受け取れました。しかし適用拡大によって厚生年金まで受け取れるようになるとはいえ保険料を支払うことになるので、負担が増えることになります。逆に、会社員でないシングルマザーの方などはこれまで、(第一号被保険者として)国民年金、国民健康保険に加入し、毎月全額自己負担で納めていました。しかし、改正後は《労使折半》で半分の負担ですむことになります。会社の厚生年金に適用されていなかった独身者も、同様です」(荻原さん)

 

こんなメリットもあるようだ。

 

「(パートでも適用される月数単位で年金が増えていくことになる)厚生年金は、将来、支給されることになった時点から国民年金に上乗せになるというメリットがあります。もうひとつは、厚生年金の場合は、国民健康保険では病気になった場合でも出ない《傷病手当金》や《出産手当金》《育児休業給付金》などのプラスαもあるでしょう」(荻原さん)

 

しかし今回の改正で、国民の老後への不安が解消するわけではない。最後に荻原さんはこう懸念を示す。

 

「拡大するのはいいことですが、そもそも現状の年金システムそのものへの不安があります。いまの状況では、株価が下落すると年金の積み立ては減っていくことになりますから。年金財政が現状どうなのかをつぶさに明らかにせよと言いたいです」

 

老後や不測の事態で働けなくなったときの支えとなる年金。コロナショックで先行きが見えなくなるなか、ますますその重要性は高まっていくことだろう――。

 

日本労働組合総連合会の年金への取り組みはこちらをチェック!

 

 

 

 

 

 

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