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「感染対策をきちんと施した場所で、少し早めのお花見を、ゆったりと楽しんでもらえればと思っています。コロナ禍の影響で、去年はきっとお花見ができていないですよね。それに、もしかしたら今年も。そんなみなさんに、わずかばかりでも息抜きできる時間、ほんの少しの憩いの時間を持っていただけたら、僕もうれしく思います」

 

こう話すのは、3月8日から始まった浄土宗・瑞華院(東京都港区南麻布5-1-3)のイベント「千本桜通り抜け」で、文字どおり1千本の桜を館内に飾った“花人”赤井勝さん。花を飾ることを「装花」と呼ぶ赤井さんはこれまで、北海道・洞爺湖サミットの政府主催イベントで装花を担当するほか、伊勢神宮の式年遷宮でも献花を奉納。前ローマ教皇・ベネディクト16世に謁見しブーケを献上するなどの経歴をもつ。

 

そんな赤井さんが今回の催しをしたきっかけは――。

 

「日ごろ、僕がお世話になっている方が、こちらのお寺の檀家をしていて。本堂建て替え工事が終わるタイミングで何か花の催しができませんか、と相談されたのがきっかけです。でも、このご時世、花を愛でてもらうためとはいえ大勢の人を集めるのも気が引けますよね。それで、どうしたものかと考えて……」

 

赤井さんが着目したのは2本の道路にはさまれるように建つ寺の立地だった。

 

「通り抜けなら、間隔をとってひと組ずつご案内すれば、人が滞留することもないから、みなさん、密を気にせず桜を楽しめるはず、そう思いついたんです」

 

コロナ禍でつらい思いをしている人の心を癒したい、そんな花人の趣旨に賛同したのが、彼から長年、装花のレッスンを受けてきたイタリア、コロンビア、ウクライナ、セネガルなど25カ国の大使夫人たち。会場には彼女らが桜に寄せたメッセージも飾られている。

 

「みなさんの自国もコロナに苦しめられている。それに、大使や夫人たちも、帰るに帰れず困っていたりもします。そんななか、日本に赴任してきて大好きになった桜を通じて、コロナ終息を祈念するメッセージが発信できるなら、と快く参加してくださいました」

 

東京・瑞華院に1000本の桜咲く。花人・赤井勝さんがコロナ終息に込めた願い
画像を見る 3月8日から始まった浄土宗・瑞華院のイベント「千本桜通り抜け」

 

イベント初日、会場に駆けつけた大使夫人や関係者の多くは、そろいの桜柄のマスクを着用していた。これは、やはり赤井さんが装花を教える大阪・八尾市の保育園の子供たちの描いた桜をマスクにプリントしたもの。赤井さんは言う。

 

「マスクってとても大事なものじゃないですか。自分の命を守り、自分の大切な人の命も守るもの。なのに、ずっとマスクをしないといけないというのは、僕らもそうですが、子供たちにとってもとても煩わしいことでもあります。だから、自分たちが描いた桜の花柄をマスクにすることで、子供たちの『マスクはイヤ』というイメージを少しでも払拭できたらな、と思ったんです。何年かたってコロナが終息したときに、このマスクが少しでも子供らの、保育園時代のいい思い出になればいいな、と思ったんです」

 

また、このイベントには、やはりコロナ禍で売り上げ減少に苦しむ花き業界を、ほんの少しでも支援したいという花人の思いも込められている。

 

「花の生産者さんたちも、本当に疲弊しているんです。去年からずっとイベントの自粛が続いて……本来だったら今ごろは卒業式に謝恩会、歓送迎会と、たくさんの催しがあって、そこには必ず花がありました。それがまったくなくなってしまった。この先もリモートの催しが増えるといわれていますよね。だから今回、僕は少しでも多くの花を買おうと思いました。タイトルにあるとおり1千本、いえ、それ以上の桜を買わせていただきました。これで、ほんの少しでも生産者さんの疲弊した気持ちが和らげば、そう思っています」

 

瑞華院の「千本桜通り抜け」は3月16日まで。館内には「陽光桜」「大漁桜」「アーコレイド」「安行桜」「河津桜」など9種、1千本の桜が赤井さんの手によって装花され、ひと足早い春を届けてくれている。

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