「病気がちの親を幼いころから世話したり、障害があるきょうだいの面倒を見たりすることにより、学校に通えない、友達と遊べない、子供らしい暮らしができないことは、たいへんつらいことだと思う。当事者に寄り添った支援に、しっかりと取り組む」
3月8日の参院予算委員会で、菅義偉首相は「ヤングケアラー問題」について方針を述べた。
少子高齢化が進むなか、無償で家族の世話や介護をしている人を「ケアラー」と呼ぶが、なかでも18歳未満の子供はヤングケアラーとして、近年、深刻な社会問題となっている。
「国には、ヤングケアラーの声をしっかりと聞いてほしい。このコロナ禍のなか、『孤独・孤立対策室』も設置されましたが、ここにも、年齢を制限せずに、ヤングケアラーもケアラーも対象に入れてほしいと思います」
こう語るのは、ケアラー支援を行う「ケアラーアクションネットワーク協会(CAN)」代表理事の持田恭子さん(54)。
CANでは、特に障害のある兄弟姉妹の「きょうだい」を中心に支援を行ってきた。持田さんもまた、親とダウン症の兄の世話を体験した“元ヤングケアラー”だ。
「私自身、まだ『ケアラー』の言葉もない時代から、物心つくのとほとんど同時に、家族の面倒を見てきました。兄の世話に母の介護が重なり、“多重介護”となったときには、これから必ず私のような人が増えていくだろうと予測していました」
何よりつらかったのは、誰にもわかってもらえないという孤独感だった。「このままではいけない」との思いこそが、「自分の人生を自分らしく生きる」ことを掲げてケアラー支援を続ける持田さんの原動力となっている。
ヤングケアラー向けの「中高生のかたり場」をスタートさせたのは20年秋のこと。つい先日も7人が参加して、オンラインでの対話を行った。持田さんが、そのきっかけについて語る。
「4年ほど前にヤングケアラー世代の中高生と語り合ったときのこと。ケアラーの中にも私をはじめさまざまな職業の大人がいたのに子供たちが驚いて、『福祉とか介護職とかじゃなくて、私たちも将来、好きな仕事を選んでいいんですね』と目を輝かせたんです。ふだんから家庭で、『あなたはしっかり者だから』と言われながら家族の世話や介護をしているから、その延長で生活していくしかないと思ってしまう子供たち。そうやって自分の感情を抑えつけている間に、徐々に主体性が摘まれていくんです。
だから、私たちの集まりでは必ず『あなたはどう思う?』と尋ねます。すると、『えっ、私が思うことですか』と戸惑う。そこから、この問題解決にいちばん大切な対話が始まるんです」
現在、このかたり場の担当スタッフの中澤安由美さん(26)は、ダウン症の妹を持ち、かつては「きょうだいの集い」の参加者だった。
「私自身、当初は、こうした集まりに暗いイメージを抱いていました。素直に気持ちを出せたというのは、持田さんが元は同じ立場だったことが大きいと思います。英語も堪能、ITにも強いキャリアウーマンの典型のような持田さんが、イベントや講演の前には『本当に気持ちが伝わるかな』といつも真剣に悩んでいる。そんな姿に、みんな、共感しています」
コロナ禍の今、施設にいる兄とは会えない日が続くが、落ち着いたらまた再会できることを、持田さんは楽しみにしている。
「家族のケアに奮闘する人に対して、まわりは簡単に言う。『そんなに無理することないよ』と。で、ケアラーは思うんです。じゃ、誰がケアするの? そして怒りが湧いてきて、次に押し寄せるのが深い孤独です。特に最近、10代からのリクエストもあって、そんな人たちの居場所を作りたい。自分を守るために、ときには逃げてもいい。今こそ、大人たちが子供の声を聞いて、本気で居場所作りに取り組むときだと思うんです」
家族と仲間たちに支えられ、持田さんは「社会の孤独や分断」と闘い続ける覚悟だ。
「女性自身」2021年4月6日号 掲載