「介護保険料の引き上げなどにより、年金の支給額は少なくなっています。そもそも、請求の手続きをしないと年金は受け取ることができません。
もしや、あなたのご両親の年金に“請求漏れ”や“貰いそびれ”はありませんか? 高齢の親御さんに代わって、子どもや孫が『請求漏れ年金』を発見し、貰いそびれた分を受け取るケースもあるんです」
そう教えてくれたのは、“消えた年金”とよばれる「請求漏れ年金」を’96年から現在に至るまで6千件以上も見つけ出してきた“年金探偵”こと、社会保険労務士の柴田友都さんだ。
「’24年3月の段階で、誰のものか明らかになっていない『請求漏れ年金』が、1千713万件もあります。’10年ごろから“該当するであろう人”に通知が出されていますが、そのうちじつに8割が放置されているのです」(柴田さん、以下同)
本誌が’17年に柴田さんに取材し「請求漏れ年金」を発見したケースを紹介したところ、大きな反響が寄せられた。現在でも、柴田さんには、1年間で1千件以上の問い合わせがくるという。
「実際に調査をして、年間80件ほど“消えた年金”が見つかっています。主に、転職を経験した人、勤めていた会社が倒産、合併、社名変更したという人に多いです。さらに女性の場合は、結婚前に働いていたのに貰っていない、夫を亡くしたが遺族年金を貰っていないなどのケースがあります」
近年は、こうした高齢の親や亡くなっている祖父母の“貰いそびれ年金”を、子供や孫が見つけるパターンが多いという。柴田さんが相談を受けて、年金の“貰いそびれ”を阻止した最近のケースを紹介しよう。
■1千万円につながった亡き祖父との会話の記憶
徳島県在住のアキラさん(45、仮名)は、母(70代)と母の双子の姉、妻(40代)、子供(20代)の5人家族。
’18年(平成30年)に逝去した祖父の一郎さん(1921年[大正10年]生まれ、享年96)から、子供のころに「おじいちゃんは、昔、野菜を扱う八百屋さんの仕事をしていた」と、聞かされていた。
「祖父が国民年金しか貰っていなかったことから『貰い忘れがあるのでは』と思ったアキラさん。同居の母、伯母も健康で頭もしっかりしている。探すなら今だと、今年5月に相談がありました」
ただ、会社名は不明。青果店で野菜を扱っていたこと、神戸市で働いていたという情報しか手掛かりはなく……。
「神戸市の年金事務所で、名前・生年月日・青果店で調べても、記録は出てこなくて困りました。そこで、野菜を扱っていたなら、それを運ぶ運送業の可能性はないだろうか、と考えたんです」
“年金探し”に行き詰まっていたところに、アキラさんから、「祖父は青果市場と言っていたが、職種が違っていて、じつは運送業だった」と、連絡が入った。当時、運送業をしていた大きな会社に心当たりがあった柴田さん。
「調べてみると、その大手の運送会社に、一郎さんの1942年(昭和17年)6月~1947年(昭和22年)9月の年金記録を見つけました。ちょうど昭和17年は、厚生年金が始まった年。大手の会社とあって、スタートしたばかりの厚生年金にも加入していたんです。
結果、一郎さんの96歳までの老齢年金分980万円ほどと、平成30年に逝去後、昭和4年生まれの祖母へ遺族年金として払われるはずだった約35万円、合わせて1千万円以上が後日振り込まれます。
このケースのように、当事者である人が亡くなっていても、子や孫が申請をすることで、貰いそびれていた年金を故人の“働いた証し”として受け取ることが可能です」