「この『絆画(きずなえ)』を描くようになって、僕自身もずいぶんと変わったように思います」
画用紙に向かい黙々と彩色をしていた男性は、ふと手を止め絵筆を置くと、こちらに向き直るようにしてこう話した。
愛知県名古屋市。パソコンや画材が置かれた、こぢんまりとしたアトリエ。その壁には家族の肖像だろうか、色鮮やかな優しい雰囲気の絵が飾られている。
大村順さん(40)は、自らを「絆画作家」と名乗っている。だが、そもそも「絆画」とはどのようなものか。彼のホームページには、こんな説明文が掲載されている。
〈絆画とは自死・病気・事故・死産などで大切な方を亡くされたご遺族のもとにお伺いして「もう一度あの人に会えるなら」という願いを1枚の絵で叶える活動です〉
加えて、大村さんは「亡くなった人が『いま生きていたらこうなっていたかもしれない』という姿を、ご遺族から聞いたお話をもとに描いています」とも話す。
そう、大村さんはもっぱら、亡き人の“いま”を描く画家だ。
もともとは、売れっ子の似顔絵師だった。延べ15万人もの似顔絵を描いてきた。その彼が、なにゆえ遺族のために、故人の絵ばかりを描くようになったのか。そして絆画は、大切な人を亡くした人たちにとって、どんな意味を持つものなのか。
プライベートでは2017年に結婚。現在はアトリエの階上の自宅で妻・仁望さん(33)、長女(5)、次女(3)とともに4人で暮らしている大村さん。絆画についてさらに質問すると、壁に掛けられた絵を眺めながら、こんなふうに話し始めた。
「僕もこうやって、自分で描いたこの絵を毎日、目にすることで、『これが、自分の家族なんだな』と改めて思えるんですよね」
視線のその先にあった絵には、大村さんによく似たメガネの男性と仁望さんらしき女性、そして2人の女の子、さらに、なぜかもう1人、男の子の姿が描かれていた。
じつは、絆画を描く彼自身も、いまは亡き大切な人と、絵を通じて繋がりを持ち続ける一人だ。
「決して現実ではないんですけど、絵を見るたび『みんな一緒にここにいるんだ』って、自分のなかの欠落感が埋まるような、満たされた気持ちになれるんです」
まるで、絵のなかの誰かに語りかけているような柔らかな笑みを浮かべながら、大村さんは家族5人の「絆画」を眺めていた。
