【前編】逝去から1カ月…“ボーイフレンド未満”小説家・平野啓一郎が明かす美輪明宏さんの思い出「初対面で30分遅刻しても穏やかに迎えてくれて」から続く
6月20日に老衰のために亡くなった美輪明宏さん(享年91)。多くの人に愛された美輪さんだが、『マチネの終わりに』、『ある男』などの作品でも知られる小説家の平野啓一郎さん(51)も親交のあった一人だ。平野さんに美輪さんの思い出と感謝の思いを聞いた。
■「最初は戸惑いもあった」美輪さんの舞台に魅了されて
2002年ごろ、対談の企画で美輪さんと知り合った平野さん。その後、美輪さんからたびたび舞台へ招待されるようになる。
『黒蜥蜴』、『双頭の鷲』、『エディット・ピアフ物語』……。平野さんは、何度も劇場へ足を運んだ。
ところが、平野さんは意外にもこう振り返る。
「最初はちょっと戸惑いもありました。あまりにも独自の世界なので」
豪華絢爛な舞台。銀色の星が吊るされ、クラシカルでどこか懐かしい舞台装置。現代演劇とはまったく違う世界だった。
だが、不思議なことに、何度も観るうちに印象が変わっていく。
「これはやっぱりすごい世界なんだと思うようになりました」
観終わったあとに残るのは、「演劇を観た」という確かな手応えだったという。
「必ずしも、“美しいもの”だけでできているわけではないんですね。庶民的なもの、懐かしいものが、色々と舞台に取り込まれている。“洗練”だけでは切り捨てられてしまうものまで、丸ごと抱きしめるようなおおらかさがありました。美輪さんは本当に、大きな器という印象でした。いろいろな人を受け止める世界を作ってらっしゃいましたね」
その世界が、圧倒的な歌唱力と一体になり、客席を包み込んでいく。
「だから人を虜にしてしまう力があったのでしょう。僕は招待状をいただくから、というのではなくて、毎回楽しみにしていました。」
平野さんは、そう振り返る。
