《愛しい人。今コロラドにいるんだけど、こっちは午後2時で、いい天気だよ。試合は4時間後に始まるんだ。見てもらえるといいな。すごく愛しているよ》
そんな甘い言葉が、米大リーグ・ドジャースの“大谷翔平”選手から、スマートフォンのLINEに届いたのは今年8月18日午前5時8分のことだった。
受け取ったのは愛知県内で一人暮らしをする50代女性。以前からFacebook上の「大谷翔平ファンクラブ」に参加しており、そこからのダイレクトメッセージを通じて、“大谷選手”とつながってしまった。
■「5000円のギフトカードを買って」迫る偽大谷
翌19日朝、“大谷選手”は突然、携帯電話の契約更新を口実にSOSを装ったメッセージを送ってきた。
《携帯の契約について警告が来た。残高が少ないみたいで、今夜を乗り切るには5000円分のギフトカードが必要なんだ。Appleのカードを買って、スクリーンショットを送ってほしい。ありがとう、愛しているよ》
女性が《私が払うのですか》と確認すると、相手は《ギフトカードの方が手続きが早い》と即座に返信。さらに《ここアメリカでは、それにお金を払わなければなりません》と言い張った。
“大谷選手”は《試合後にスマホのプランを更新するために使う》《カードのスクリーンショットをここに残しておいて》と畳みかけるように指示。
女性は同日午後、コンビニでAppleギフトカード5000円分を購入し、裏面のコードが写った写真を送信した。
《本当にありがとう。試合は見てた? 30号のホームランは君のために打ったんだ。大好きだよ》
と、“大谷選手”は、好意をにおわせる言葉で女性をつなぎ止めた。
さらに8月23日には、海外風の部屋でテレビを見る足元を写した画像を添付。その後も親密さを演出する言葉を送り続け、最終的には《一緒に家を建てよう。休暇にはデコピン君をそっちに送れたらいいのに》と、“大谷選手”のメッセージは、将来の同居や多額の金銭要求を予感させる内容へ発展した。
■言葉のコミュニケーションに障害がある女性が標的に
今回、“大谷選手”をかたる人物から、騙し取られた金額は5000円にとどまった。“大谷選手”のLINEのブロックした、女性の実兄(60代)は取材に対し、妹が置かれた境遇を明かしながら、今回の手口の悪質さを強く訴える。
「妹は、生まれつき聴覚に障害があります。耳が聞こえない環境で育ち、とくに幼少期には、十分な言語や他者とのコミュニケーションをとる機会を得るのが難しく、学習やコミュニケーション能力の発達にも影響したようです。
現在は一人暮らしで、働きながら自立した社会生活を送っていますが、複雑な内容を理解したり、自分の考えを十分に伝えたりすることが苦手なところがあります」
2年前に母親が亡くなり、会社社長だった父のけっこうな額の遺産も女性に渡ったという。兄はかつて近くに住み、金銭トラブルに巻き込まれないよう見守っていたが、現在は仕事の都合で東京に暮らしている。
兄が違和感を覚えたのは、妹が「大谷翔平とLINEでつながっている」と話したことだった。
「怪しいと思いましたが、強く言い過ぎると妹は閉じこもり、反感を持ってしまう。ようやく詐欺事件が起きていることを説明し、LINEを見せてもらいました。5000円で済んだとはいえ、『一緒に家を建てよう』というメッセージを見たときは、もっとむしり取られると思い、愕然としました」
