身長4mを超える女性像が、ついに「市民」になった。
青森県十和田市は9月11日、十和田市現代美術館の常設展示作品である彫刻「スタンディング・ウーマン」に特別住民票を授与した。
「20年近い歳月の中で、彼女はいつしか、この美術館に欠かせない存在となりました。十和田は本当の意味で彼女の故郷となります。誠に光栄です」
この“新住民”の誕生に、作者である現代美術家のロン・ミュエク氏(68)もメッセージを寄せた。
授与式で同市の櫻田百合子市長(58)は「市の特別な住民として愛され、誇りであり続けてほしい」とあいさつし、特別住民票を四方幸子館長(67)へ手渡した。
「スタンディング・ウーマン」は、2008年の開館以来18年にわたり同館に立ち続けている。高さ4mを超える巨大な女性像でありながら、皮膚のシワ、透ける血管、髪の毛の一本一本まで息づくように表現され、そのスケールと精密さの落差が見る人を足元から見上げさせる。
圧倒的な大きさと精密さのギャップが反響を呼び、美術館の顔として親しまれてきた。
作者のミュエク氏は、現在、森美術館(東京・六本木)で展覧会『ロン・ミュエク』が開催されており、大きな注目を集めているタイミングでの住民票授与式となった。
なぜ、作品に住民票なのか。十和田市観光企画課の担当者に聞くと、そこにはアートの話題性を市の発信につなげたい狙いがあった。
「たしかに、森美術館で展覧会が話題になっているタイミングに合わせて企画しました。以前にも市のマスコットキャラクターに特別住民票を交付した例がありますが、今回は広く話題を集めて十和田市の認知度向上や観光PRにつなげる狙いがあります」
実は、自治体が人以外のキャラクターや動物、アート作品に「特別住民票」を交付する例は全国に存在する。
その先駆けとなったのが、2002年8月に多摩川の丸子橋付近に現れ、社会現象となったアザラシの「タマちゃん」だ。
横浜市西区で特別住民票が発行され、日本中で大きな話題となった。その後も、ユニークな「新住民」は誕生し続けている。
埼玉県新座市は2003年、アニメ制作会社の手塚プロダクションのスタジオがある縁から、「鉄腕アトム」の特別住民登録を行った。アニメキャラクターとしては日本初の試みで、世帯主はお茶の水博士!
また、神奈川県川崎市は2012年、市内に「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」が開館して1周年を迎えたことを記念し、「ドラえもん」に特別住民票を交付した。
観光活性化やブランディングの目玉として活用する自治体も多い。
東京都新宿区は2015年、歌舞伎町にオープンした商業施設のテラスに登場した高さ12mの「ゴジラヘッド」に特別住民票を授与。
「特別住民票上の住所は新宿東宝ビルの所在地としていますが、新宿東宝ビルにいるゴジラに限定しているものではありません。まちのシンボルとして新宿の賑わいの創出につながり、また区の観光客向けマナー啓発やふるさと納税においてゴジラコラボを行うなど、新宿の魅力の発信やまちの発展に寄与しています」(新宿区文化観光課)
地域づくりに深く組み込まれているケースもある。
埼玉県春日部市では、2004年に人気アニメ『クレヨンしんちゃん』の野原一家を特別住民として登録。
「日本一子育てしやすいまち」を目指す同市では、野原一家を「子育て応援キャラクター」や「まちの案内人」に起用。子育て支援や広報活動、観光振興など多角的な施策で活用を続けている。
“税金を払わない市民”に住民票を与える取り組みは、単なるPRイベントにとどまらず、地域住民の愛着を育むきっかけとして定着している。
十和田市に誕生した「身長4mの市民」も、アートと街をつなぐ新たなシンボルとして、これからも訪れる人々を温かく出迎えてくれそうだ。
画像ページ >【写真あり】「スタンディング・ウーマン」の特別住民票(他2枚)
