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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

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ここは岸和田市中央公園。
スポーツセンターも隣接した、広い広い公園である。
わたしは迷いまくった末、
フェンスで囲われた~不思議な一角に辿り着いた。

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そこが…国内で唯一「フィーエルヤッペン」の練習を行っている場所である…!

 

その日も練習会を行っていたので、
お邪魔させていただいた。

 

説明しよう。
フィーエルヤッペンとは…オランダ・フリースラント州発祥のスポーツ。
長さ8m~13mの棒を用いて運河や水を張った堀を飛び越える競技である。

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非常にシンプルだ。
走って棒を川の底に突き刺し、体重を移動させて向こう岸に飛べればいい。
もちろん、失敗して落ちれば水の中にドボーン!!である。
生還か、ずぶ濡れか。
そんな究極の二択を迫られる競技なのだ。

 

10数年前、日本にフィーエルヤッペンブームが訪れたこともあったそうだが
フィーエルヤッペニストも減少の一途を辿り今では全国の競技人口は非常に少ない。
とはいえ定期的に記録会も行われ、まだまだ日本で活動中のスポーツなのである。

 

その日は7人くらいの参加者がいた。

 

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まずは陸練習で感覚をつかむ。
少し高くなっている台から、立てられた棒をつかんで
ゆるやかに落下して着地する…という練習である。

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正直わたしは人がやるのを見ながら「イケるイケる!」と気軽に考えていた。
高いところに対しては特別恐怖心もない。
それどころかすごくスピード感や爽快感があってすごく楽しそうだ。
頭の中でイメージは完璧で、「堀でもなんでも越えてやるぜ!」と高をくくっていた。

 

いざ「やってみるか」とコーチに陸練習に参加させてもらったところ…
棒を目の前にしたときの「これをどれでどうすんの?」と頭が真っ白に染まり、
「い、イメージがわかない…!」と絶望感が募る。
あれだけイメトレしたのに…現実の前では無力…!
わたしはへなへなと弱弱しい放物線を描いて、地面に着地した。

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フィーエルヤッペンでは飛んですぐは足の間に位置する棒を、空中で右か左に抜かなければならない。
さらに飛距離を競うので、棒にしがみついた瞬間よじのぼる技術も重要になってくる。
よじのぼればよじのぼるほど、遠くへ到達できるのだ。
「川を飛び越える」というシンプルさに対して案外空中でやらなければいけないことが多いのである。
その感覚を鍛えるための陸練習でもあるのだが…

 

難しい…!
全く頭がついてこないよ!!!

 

さっきまでナメてかかっていた自分をグーで殴りたいくらいデカい壁がそこにはあった。
根底に眠っていた“恐怖心”を呼び覚ましてしまえば
消すのはなかなか難しい。
さっきまでは堀を攻める気満々だったが、その勢いはあっさり砕けたのだった。

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己の限界を悟ったわたしはもう見る専門として
一周まわって心穏やかに見学に努めた。

 

いよいよ堀での練習だ。
経験者たちは、躊躇ない走りで堀を飛び越えていく。

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カッコイイ…。
短いようでいて、永遠にも感じそうな浮遊時間。
飛び越えし猛者たちは空中で一体何を思うのか…。

 

元々出来ていたのに、一度落ちてしまってからスランプに嵌ってしまうひともいると言う。
それだけこの競技は“恐怖心”を打ちのめす思い切りとの戦いなのだ…。

 

これだけ実用性が直結したスポーツはない。
フィーエルヤッペンで培われる勢いの良さとジャンプ力は、
必ずや敵に追われてビルからビルへ飛び移るときや
無人島で遭難して崖を飛び越えなければならないときに活躍するはずだ。
何かと生存率が上がるに違いない。
わたしは生存率があげられないままフィーエルヤッペン練習場を後にした…。

米原千賀子

ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。