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人間は、広い世界のほんの一部で生きている。
全てを知ることはできない。
世界のどこかには、自分の知らない何かを熱狂的に愛してる人がいる。研究する人がいる。
そんな人が集まると、小さなブームになる。
誰かの世界を、少しだけ覗いてみちゃおう。
それが「うさこの覗いた世界」なのだ…!

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うさこは思った。
最近心が汚れている、と。
仕事が終わらないだのおいしいものが食べたいだの南の島に行きたいだのいやいっそ半年くらい逃避行の旅に出たいだの(エンドレス)、なんだなんだ、心は邪念ばかりじゃないか。
そうだ。ここらで一発、心をキレイにしよう。

 

しかしこの薄汚れた世界で、心をキレイに出来るものなんてあるのか?
…そうだ…写経だ…!

 

“写経”――誰もが一度は訊いたことがあるだろう。
写経とはお経(一般的なのは「摩訶般若波羅蜜多心経」など)を自分の手で書き写すことである。
印刷という技術がなかった時代、口頭で説くだけから写経で仏教を広めるようになったのがおよそ1800年前。
読めば徳が積まれると言われる「お経」。
人々は書き写すなかにも徳を見出し、今では立派な功徳の行為として人々に広まっているが
近年その写経が「写経ブーム」と言われるほど人気だという。
言われてみればうさこばばも写経の本を買ってきて3日坊主の写経体験をしたりしていた。

 

曰く、写経は心にも体にも良いらしい。
ここで写経が人々にもたらす素晴らしいチカラをご紹介しよう。

 

① 落ち着く心!究極のリラクゼーション!!
雑念の一切ない世界。聞こえるのは筆が紙の上を走る音だけ。
そこは世界が切り離されて、ストレスも欲望も一切存在しない。
ただ無心になる!無心になってお経を書き写す!!!
正座をすることで通常下肢へ行く血流が脳に回り集中力が高まるという相乗効果もあるらしい。
誰にも邪魔されない異世界へと飛び立とう。

 

② 徳を積める!目指せ極楽浄土!!
先述のとおり読むだけで徳があるとされるお経を書き写すとなれば、極楽浄土待ったなし!!
…とは言い過ぎかもしれないが、
徳を積み重ねることによって死後の世界も変わってくるに違いない。
誰もが心に罪悪感を背負って生きていることだろう。
友人と喧嘩した、ダイエット中なのに食べすぎた、恋人に内緒で男友達とごはんに行った…
今こそ、今こそ徳を積む時…!!

 

③ 文字の鍛錬!目指せ美文字!!
写経の神髄は「お手本を書き写す」こと。既に薄く書かれた文字を「なぞる」こともある。
それは正しい文字を書いて覚えるということ。
難しい漢字を書き写しながら、自分の癖とも向き合えるぞ!!

 

④ 密かに鍛えられるマッスル!?繋がるココロとカラダ
正座をするとしびれない角度を探して重心を動かすことから
骨盤と内臓を支える筋肉が緊張し鍛えられるらしい。
まさかの写経で美ボディ!?

 

どうでしょう。みなさん今すぐにでも写経がしたくなったんじゃないでしょうか。
自力でやるという手もあるが、全国には写経をさせてくれる寺院が存在する。
ここは一発寺院のメッカ京都へ行こう!ということで
わたしは京都・東山の“御寺泉涌寺別院 雲龍院”へと旅立った。

 

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雲龍院は京都駅からも近く、アクセスは便利だがそこそこ山の中に位置する。

 

宮内庁のお墓などを通り過ぎ、なお坂道を上がった先に佇むお寺
それが“御寺泉涌寺別院 雲龍院”だ。

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体験料1,500円を納め、写経体験できる本堂へ。

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小さな机の上に「写経の心得」、般若心経の書かれた紙、硯、筆が並ぶ。
この机は後水尾天皇によって寄進されたものらしい。
後水尾天皇…!?
1611~29年に在位していた第108代の天皇じゃないか…!
400年の歴史も噛み締めながら写経ができるのだ。

 

写経を始める前に、まず体を清める必要がある。
口に丁子を含み、お香を手に塗り、祈祷された清水を頭に注ぎ
ようやく写経ができる状態が出来上がる。
儀式を経ることで、「これから写経をする!!」という自分のボルテージも最高に上がる。
歴史ある机に臨み、清めの儀式を行う。
これはお寺の「写経体験」でなければできないことなので、
ぜひとも体験してほしいところだ。

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そしていよいよ写経である。
薄く般若心経が書かれた上から、朱墨でなぞって書き写す。
実はわたしは小学生のころから文字をなぞるという行為が大嫌いで
はみ出すことが人生だった(反抗期)のだが、
清められたおかげか、写経の力か、綺麗になぞることができる。
何も考えず、ひたすら文字を追う。
背筋を伸ばして、筆を走らせる。
今ここには、硯と筆と文字とわたししかいない。
これが…無心…!
徒然なるままに、日暮らし硯に向かいて、般若心経をそこはかとなく書きつくれば怪しうこそ物狂おしけれ…!!(?)
やる前は「すぐ終わるのでは」と軽く考えていたが、丁寧に1文字1文字書き記していくと1時間ちょっとかかる。
為し終えたときには確かな達成感が胸を占めた。
最後に願いと住所と名前を書いて、持って帰ることもできるが納経することもできる。
基本思い出は持って帰りたいタイプのわたしだが、
ここはひとつ、心からの願いを込めて納経させていただいた。

 

終わった気分で、お抹茶券をいただいていたことを思い出す。
お抹茶をいただけるのかな?と軽く思っていたところ
「それではこちらへどうぞ」と個室へ通された。
こ、個室…!?

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障子の合間からお庭が見える絶景のお部屋である。
「お抹茶用意するのでお待ちくださいね」と言われソワソワしながら待っていると、
現れたのがこちらである。

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きなこたっぷりの葛まんじゅうと抹茶の最強コンビ。
これをこの個室でいただける贅沢さと言ったら…!!!
写経ですべてが終わったと思っていたわたしには、あまりにうれしすぎるご褒美で
わたしはすべてに酔いしれながらゆっくり大切に葛まんじゅうを味わった…。

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他にいろんなお部屋を見せていただいて、お庭を拝観したり、

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瞑想石に足を乗せて瞑想してみたり、お寺を満喫。
「写経体験」で終わらない、いろんなものがそこには待っていた…。

 

情報が溢れるこの世の中で、すべてから切り離されて「無心になる」こと。
時にそれは何よりも休息になる。
疲れているのは、体じゃなくて心かもしれない。
睡眠や温泉じゃ癒せない、心の休息がここにはあった…。

米原千賀子

ライター兼イラストレーター。へっぽこな見た目とは裏腹にシビれる鋭いツッコミで世の中を分析する。人呼んでうさこ。常に今日の夜ごはんのことを考えている食いしん坊健康オタクな一面も。webマガジンNeoLなどで連載中。