image

8月某日 東京

なんとも暑い夏でありました。〝ありました〟とはいってもまだ終わったわけではないのですが、とりあえずイタリアでも日本でも自分の人生で経験した中ではトップレベルの気温の高さを体感し、なぜこの世には「夏休み」たるものが存在するのかを痛感した次第です。

イタリアでは今でこそ経済状況の不安定さによって、数年前までのように夏の間は丸々一ヶ月夏休みを取る、という人たちも減ってきましたが、それでも、仕事でも学業でもどんな分野においても人間の動きというものは、この時期一気に緩む事は明らかです。

実際、暑さというのは人の運動機能や脳の動きを弛緩させる作用のあるものなので、南国で勤勉に働く人々のいる国というのは、シンガポールや香港など、アジアの経済国くらいじゃないかと思います。南米もアフリカも、中東もイタリアやスペインのような南欧も、気温が高い日中は皆無駄に体力や労力を費やしません。イタリアに関しては国営放送のニュース番組で「今日は高温ですからなるべく家の中にいるようにしてください」という案内があったりします。結果、家の中でゴロゴロダラダラして過ごすわけですから、そんな暑さや、暑さで無気力になってしまう人に、文句を言う人もいません。

 

「なんでこの暑い時期にこんなに体力を消耗する事をするのだ!?」

かつて困窮していたキューバにサトウキビ収穫のボランティアへ行ったときも、私以外積極的に働く人が見あたらないので、つい憤激して「私が手伝いにきたのに働かないのはどういうことですか!」と文句を言ったら、地べたにしゃがんだ現地民のおじさんたちは皆わたしの顔をぼんやり見つめながら、「だって暑いんだもの」と一言。「あんたも倒れる前に休みなさい」と。

今回灼熱の夏を数週間日本で過ごしましたが、家の中ではクーラーをフル稼働させているとはいえ、仕事をするのが辛くてなりませんでした。連載漫画も描かねばならないし、文字原稿もテンコ盛りにあるし、取材仕事も幾つも入っている上、お盆には自分が参加しているバンドのライブ。それに合わせた練習やら何やらで、体力と精神力の限界を感じないではいられませんでした。

できれば、8月の1カ月間は自分のスイッチも切って、どこかでダラダラゴロゴロ何もせずに過ごしてエネルギーを養いたいところなのですが、テレビを付ければその画面では、高温注意報が発せられるなか、高校生たちが汗みずくになりながら賢明に野球をしているし、そんな彼らを応援している人たちも必死だし、漫画の原稿を待ってくれている編集者も、暑さの中、会社まで通勤しているわけです。そんな事を慮ると、とてもじゃないけれど「だって暑いんだもの」と自分だけダラダラゴロゴロなんてする勇気は沸いてきません。

真夏の時期に行われる高校野球は、それこそイタリア人やキューバ人など、夏には何もしないのが当たり前の人たちが見れば「なんでこの暑い時期にこんなに体力を消耗する事をするのだ!?」と驚いてしまうでしょう。ましてや2020年の東京オリンピックはこの時期に開催されるわけですが、その年の夏がせめて北海道のように涼しいものであってくれますようにと願ってやみません。

国立競技場やらエンブレム問題やら、開催前から何気に「運動の祭典」というコンセプトとは接点の無い、若干意気込みを萎えさせられてしまうような報道が続いていますが、もう暑いので、敢えてオリンピックに関しては追求いたしません。

image

最も暑い時期に激しく踊りまくるカーニバルがあったりする

とにかく温度計が38度を差せば、それは「人間は動いてはいけない日」だと解釈する人も、この世にはいるという事を念頭に置いておくべきかもしれません。

なんて事を言いつつ、私もお盆に開催されたライブイベントでは暑さの中で過剰に張り切ってしまいました。夏にちなんだ曲をお披露目するというのをコンセプトにした今回のライブは、我々「とりマリ(とり・みきさんとわたし)&エゴサーチャーズ」のいつものメンバーと、「泊」という、やはり漫画家同業者である山田参助さんがヴォーカルを担当されているデュオとの合同企画。昭和の初期~中期のノスタルジックな歌をお披露目する「泊」の演奏の後は、ラテンをメインにした我々の演奏だったわけですが、この「泊」の2人が奏でる歌も演奏も「あなたたちの本業は一体何なのですか!?」と問い質したくなるような素晴らしさ。浴衣に身を包んだ多くの来場者の皆さんも、参助さんの甘く優しい歌声にうっとりしていらっしゃいました。

最後は参助さんと「夕陽に赤い帆」や「キエンセラ」を歌ってイベントを終了、精根尽き果てて家に帰ってみれば、私にはもう立ち上がって何かをする力も残ってはおりませんでした。ダラダラゴロゴロをしていたい夏のまっただ中に、気が付けば自分もいつにないエネルギッシュな時間を過ごしてしまったわけですが、考えてみたら、ブラジルでも1年の中でもっとも暑い時期に激しく踊りまくるカーニバルがあったりします。

暑いが故に身体の底からマグマのように沸き出してくるエネルギーもあるということなのでしょう。

仕事のやる気の無さという意味でも、沸き出すエネルギーという意味でも真夏らしさを大いに体感した今となっては、涼しく過ごせる季節の到来を待ち構えるのみです。

関連タグ: