典型的な過疎の島に、東京からひと組の家族がIターンしてきた。女の子ばかり6人もいる大家族だ。その母親は、島の子供たちも含めたアイドルグループを結成、地元のお年寄りたちを喜ばせている。

 

その日、慰問ライブ会場となる島のデイサービスセンター海悠園には、開演1時間前から30人近くのお年寄りたちが集まって、小学生6人からなる“島ドル”『踊り子in大入島』を今か今かと待っていた。

 

ステージが始まると、懐かしの昭和の名曲オンパレードに、80歳代が中心のお年寄りの相好が崩れた。平成生まれが歌う『東京ラプソディ』。ネコに扮したメンバーが登場するなど、『黒猫のタンゴ』ではミュージカル風の演出もあった。最後は、童謡『肩たたき』を歌いながら、一人ひとりがお年寄りの背後に回って、肩をやさしくたたいて歩いた。

 

「ここに来られているお年寄りのなかには、認知症の方も多いんですよ。お年寄りにとっては、子供たちと手を触れあうだけでも、いい薬になるんです」(同園の介護福祉士・檜垣晃一さん)

 

大分県佐伯市・大入島(おおにゅうじま)は、佐伯港からフェリーで10分ほどのところにある。1周約17キロ、自転車なら2時間もあればグルリと1周できてしまう、ひょうたん形の小さな島だ。四国と九州を隔てている豊後水道に面し、古くから、黒潮と瀬戸内海の冷水が交差する豊かな漁場として知られる。しかし、今は島の過疎・高齢化が年々進み、人口はわずか885人(’13年8月末現在)。65歳以上の高齢者の割合は53.5%で、島の半数以上がお年寄りということになる。

 

そんな過疎・高齢化の進む島に大熊亜里紗さん(30)夫婦が6人の娘たちと共に移住してきたのは、’12年6月のこと。

 

「正直、不安はありました。これからどうなるんだろうって。でも、同時に、なんとかなるだろうとも思いました。私、あまり深く考えないほうなんですよね」(亜里紗さん・以下同)

 

亜里紗さんの出身は東京都葛飾区。小学1年生で児童劇団に入団し、5年生のときに超難関といわれるミュージカル『アニー』のオーディションに合格した。

 

「約9千人が応募して、合格は20数人という狭き門です。『アニー』は毎年、選考があり、合格しても活動期間は1年だけ。ですが、その1年間はすごく濃いものでした。いまだに当時のダンスも曲も覚えているくらい」

 

その後も亜里紗さんは子役として、さまざまな舞台に出演。そして、『三婆』(’98年)、『アイ・ラブ・坊ちゃん』(’00年)などへ出演し、舞台女優として活動の場を広げていった。そのただ中で、ヨットマンとして活動するご主人(51)と恋に落ちる。このとき亜里紗さんは19歳だった。

 

結婚後は専業主婦に専念。’03年夏、長女・美帆さん(10)を筆頭に、’04年に次女・あゆさん(9)、’05年に三女・菜乎さん(8)と、3年連続で女の子を出産。’07年には四女・文乃さん(6)、’09年に五女・蓮華さん(4)、’10年に末っ子のつばきちゃん(2)と気がつけば女の子ばかりの大家族になっていた。そんな大家族の、縁もゆかりもない大入島への『Iターン』だったが、一家は島の人に温かく迎えられた。

 

「身内のように接してくれる島の人たちのため、できることはないだろうか。子役時代の経験が生かせないだろうか。そんなことを考えながら、娘たちにダンスを教えたことが、そもそもの始まりでした」

 

別の地区の子供たちにも声をかけ、いっしょに練習を始めたのが3月だった。美帆さん、あゆさん、文乃さんの大熊姉妹に加え『踊り子in大入島』のメンバーになったのは、河内史帆さん(9)と清家優羽菜さん(8)、鈴音菜さん(7)姉妹だ。

 

8月上旬、大分市で開催されたキッズ・ライブショーに出演し、初めての『オーディション』でみごと合格。『踊り子in大入島』は本格的に動き出した。亜里紗さんは、今後の抱負を「まずは、この島で愛されるグループになれるように。あとは子供たち次第ですね」と語った。

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