先日、福島第一原発の所長だった吉田昌郎さん(故人)が、事故当時の様子を克明に語った「吉田調書」の一部が朝日新聞で報道された。そのなかで3月15日朝、2号機の圧力容器の爆発が迫るなか、現場にいた東電所員の約9割に当たる650人が吉田所長の「原発内にとどまれ」という命令を無視、10キロ南の福島第二原発に撤退したという、衝撃の事実がわかった。

 

これまで東電はこの事実をひた隠しにし、全員がとどまったかのように伝えられていた。3月15日朝というと、当時の菅総理が東電本店に乗り込み「撤退は許さない」と直談判した直後。しかし実際は現場の所員のほとんどが撤退してしまっていたのだ。

 

「東電の隠ぺい体質はいまに始まったことではない。それ以上に問題なのは、一サラリーマンである東電所員に死ぬ覚悟で逃げるな、と誰が命令できるかということです」

 

そう語るのは、福島第一原発4号機の圧力容器を設計し、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)の元委員でもある田中三彦さん(サイエンスライター)。実際、このとき2号機の圧力容器は大爆発寸前。もし容器が爆発したら、現場にいた全員が死亡。東北から首都圏にいたる広い地域が居住禁止になっていたといわれる。

 

「菅さんは大爆発したら東京も住めなくなる状況に照らして、東電社員に命を懸けろと命じたわけですが、東電社員は兵隊じゃない。一サラリーマンです。逃げるのが当たり前とも言える。吉田さん自身はダメだったら死ぬ覚悟で残ったのは立派。だけどサラリーマンである電力会社社員に命を懸けてもらわないと多くの国民の生活と財産が失われる。そんな危機管理体制を再検討せず、今後、原発再稼働させてよいのか。それは大問題です」(田中さん・以下同)

 

折しも、5月21日、福井県大飯原発3・4号機再稼働差し止め請求の裁判で、福井地裁は『いまの安全基準では真の国富は守れない。運転差し止めを認める』という判決を出した。

 

「逃げた東電社員を卑劣というのは簡単。肝心なのはそんなサラリーマンまかせの危機管理では住民や国土は守れないということ。いまの体制のままで再稼働していいんですか?このことを国民に問いかけているのが『吉田調書』だと思います」

 

危うい危機管理をそのままにして、原発再稼働を許していいのだろうか。

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