「この法案が実現すれば、会社の都合で残業代なしの長時間労働を強いることが合法になります。“過労死促進法”ともいうべき危険な法案です」

 

ブラック企業被害対策弁護団の代表も務める、弁護士の佐々木亮さんはそう警鐘を鳴らす。佐々木弁護士が危険視するのは、働いた時間でなく、仕事の成果に応じて労働者に報酬を出す、新しい労働制度。新聞などでは「残業代ゼロ法案」の名で報じられている。

 

「効率的に働けば、短時間で仕事を終わらせられて、会社としての生産性も上がる」というのが、経済産業省を中心とした政府の言い分だが、一方では「サービス残業を増やすだけ」とも指摘されている。安部首相は、早ければ’16年春にもこの制度を実施したい考えだ。

 

安倍政権の裏に潜んでいるのは、経済界の思惑だ。新制度について協議する「産業競争力会議」のメンバーには、有名企業の社長や会長が名を連ねている。

 

「この制度をいちばん望んでいるのは、企業の経営者ですから。『残業代を払わず、労働者を働かせたい』というのが真の狙いです。政府がこの法案にこだわる理由は、会社が残業代を払わなくてもいい選択肢を増やしたいから。それだけです」(佐々木弁護士・以下同)

 

では、もし「残業代ゼロ法案」が実施された場合、真っ先にターゲットになるのは、どんな仕事なのか。まず厚労省の案では、「世界レベルの高度専門職」をその対象としている。

 

「具体的には、為替ディーラーや投資会社の資金・資産などの運用担当者、研究者などが考えられます。今回、厚労省が法案に妥協したことで、このあたりの職種から始まるでしょう。しかし、一度、制度が始まってしまえば、なし崩し的に広がるのは間違いありません。そのとき、最初のターゲットになるのは『営業職』です」

 

「産業競争力会議」が示す制度の対象者には、いくつかの種類がある。そのなかに「職務内容と達成目標が明確で、一定の能力と経験を有する者」「業務遂行方法、労働時間・健康管理等について裁量度が高く、自律的に働く人材」というのがある。営業職はまさにこの内容にぴたりと一致しているのだ。

 

「次に危ないのは、企画、広報、マーケティング、営業戦略の仕事などです。これは同じく対象となっている『イノベーティブな職務・職責』を果たす人材に当てはまります。ほかにも『将来の経営・上級管理職候補』とありますが、すべての社員が将来、幹部になる可能性があると考えれば、全社員を対象と見なすこともできるわけです」

 

また対象となる会社は、中小企業も含まれる。こうなると、あらゆるホワイトカラーの仕事が含まれている、と言っても過言ではない。わが家の夫も、いつの間にか残業代がゼロに……ということがあってもおかしくないのだ。

 

「’07年に同法案が出されたときは、世論の強い反対で頓挫しました。ブログに投稿したり、ママ友同士で話題にしたりするだけでもいい。声を上げることが大切です」

関連カテゴリー:
関連タグ: