「多くの人がSNS疲れや、仕事のオンとオフのあいまいさにストレスを感じています。そんな現状を踏まえると、“あえてつながらない旅”はいずれ人に自慢したくなる旅の形になるかもしれませんね」(JTB総合研究所・早野陽子研究員)

 

常に誰かとつながっている安心感も、時として自分を追い詰めることも。たまには、すべてを断ち切って、ひとりでのんびりしたい。そんなあなたにおすすめなのが“現代の隠れ里”圏外にある秘湯宿だ。そのなかの一軒の宿に記者は向かった。

 

千葉県の房総半島の山間部にある「酵母の湯宿 花山水」。都内からアクアラインを渡り、木更津インターから約40分。到着してまずスマホを確かめる。「圏外」だ!

 

県立の自然公園内に建つ宿には鹿や野鳥が遊びにくることも。都会の喧騒から離れて、思わず両手を広げて深呼吸。裏手の坂道を下りると、養老川の上流にいきあたる。せせらぎの音に耳を澄まし、長靴で川を歩いてみた。清流、緑の木々、青い空……。自然と一体化して仕事のことは忘れ、無意識に歌が口をついて出る。気分は上々だ。

 

スマホを取り出して風景を写真に収める。いつもなら、すぐFacebookにアップするが、「圏外」だからできない。いや今は、誰かとシェアするよりも、全身でこの空気や自然を受け止めて、独り占めしていたい。このナイスビューは、敷地内の「プライベートリバー」で、宿泊者のみが味わえるぜいたくなのだから。

 

夕飯前にお風呂をいただく。温泉ではないが天然の酵母と糠を合わせた「酵母の湯」が女性の肌に優しく美肌とデトックスに効果アリ。檜の貸切り半露天風呂(1,000円)からは高原が見渡せる。

 

作務衣に着替えて、「炉端焼き」の夕食に。食事中にスマホで写真を撮る人が多いが、炉端は自分たちで食材を焼きながら食べるのでそんな暇はない。追加で伊勢エビ、アワビ、ステーキ(セット3,000円)とビールを注文。パチパチはぜる炭火の音も耳に心地よい。

 

「基本はセルフで焼いてもらってます。火を見ると、人の心は落ち着き、ふだんできない会話が弾むようです」

 

そう語る館主の木村裕和さんは、「祖父から受け継いだ自然豊かなこの土地を生かし、ファミリー向けにしたい」と6年前に宿をオープン。’10年と’13年には10室以下の宿に贈られる「楽天リトルアワード賞」を受賞し、人気宿になった。

 

「今まで『携帯はつながらないのか!?』と驚く方が多かったのですが、家族で自然に触れあえる山奥の奥養老で、デジタルではない生身の人間の付き合いを重視してほしいです」(木村さん)

 

夜もテレビを見ず、読書して静けさを満喫。室内にWi-Fiは届いているが、「つなげない」ぜいたくを選んで、「圏外」の宿の夜は更けていったーー。

 

たった一泊でも、日常の“つながり”から解き放たれ、ストレスを解消できた気が。さあ、あなたも“つながらない旅”に出てみませんか?