いよいよ、未(ひつじ)年がやってくる。動物好きの人なら、干支にちなんだ神社に初詣でするのもよいのでは?そこで、全国たった2カ所という「羊神社」を取材!そこには、意外な歴史ロマンが詰まっていた。

 

12年に一度、未年には境内に参拝者があふれかえり、鳥居の外まで長蛇の列ができるのが、愛知県名古屋市にある「羊神社」。境内には、氏子から奉納されたという狛犬ならぬ“狛羊”もあり、未年気分を盛り上げる。千年以上前からこの地に鎮座している歴史ある神社だ。めずらしい社名の由来を、宮司の半田収さんに尋ねると、話は奈良時代までさかのぼった。

 

「かつて『羊太夫』なる人物が、奈良の都へ上るときに立ち寄っていた屋敷が、この地にあったと伝えられています。土地の人々が平和に暮らせるよう、羊太夫が火の神を祀ったのが、当社のはじまり。そしていつしか『羊神社』と呼ばれるようになったんです」

 

現在も土地にその名を残す羊太夫とはどんな人物だったのだろうか。古い文献をひもとくと、「羊太夫伝説」としてさまざまなストーリーが残されている。なかでも目を引くのは、708年に鋳造された、日本最古の貨幣といわれる「和同開珎」の誕生に関わったというもの。

 

「当時、貨幣の原料となる和銅を秩父で発見したのが、この羊太夫だと伝えられています。その功績を認められ、朝廷の有力公卿であった藤原比等から、現在の群馬県にある土地と藤原姓を賜ったということです。群馬県には、羊太夫その人を祀った『羊神社』がありますよ」(半田さん)

 

群馬県安中市の「鷺宮咲前神社」。この地の羊神社の宮司も兼任している和田雅之さんに話を聞くと、羊太夫の実在を裏づけるような答えが。

 

「こちらの羊神社は、江戸時代初期の創建。羊太夫の子孫といわれる多胡一族が先祖である『多胡羊太夫藤原宗勝公』を祀ったものです。神社の周りには、今も60世帯あまりの多胡姓の方々がお住まいですよ。多胡家の旧家には、羊太夫伝説が記された『多胡羊太夫由由来記』の写本も所蔵されています」

 

和田さんの案内で訪れた羊神社は、竹林の中にたたずむごく小さな社。本殿の脇で、羊の絵馬を模した真新しい白い看板が目立っている。

 

「例年、初詣でに訪れる方のほとんどは、氏子である多胡家の方々。でも来年は未年ですから、遠方から訪れる方があるかも知れないと思い、先日、急ごしらえで設置したんです」(和田さん)

 

未年の始まりに、古代史ロマンに浸る初詣ではいかが?

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