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「坂本九の『上を向いて歩こう』が街角に流れていたころに、大村先生は“下を向いて研究”していたのです。先生の口癖は祖母からたたき込まれたという『人のまねをするな』です。この教えを貫いたことが今回の受賞に結びついたのです」

 

今年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智・北里大学特別栄誉教授(80)。定時制高校の教師から研究者になり、アフリカや中南米などで多くの人を失明に追い込んだ「河川盲目症」の特効薬「イベルメクチン」を発見。“アフリカ大陸を救った”化学者と称される大村さん。そんな彼の実像を描いた『大村智』(中央公論新社)の著者で、科学ジャーナリスト馬場錬成さんがこう語る。

 

「大村先生のポケットには今も土を採取する小さなビニールの小袋が入っています。そして、道を歩いているときも常に視線は地面に向けています。30代後半のころ、自宅近くの空き地で、先生は腐敗したカボチャを見つけました。誰も興味を示さない腐ったカボチャの中にカビが生えているのを見つけた先生は採取し、詳しく調べてみたそうです。すると、そこには10種類以上の微生物が共生していて、それがウイルス感染を阻止する物質を作る細菌だったのです。その発見は当時大変な話題を呼びました」

 

大村さんの“足もとを見る姿勢”が世界中で苦しむ患者たちの希望になったのだ。

 

「今回のノーベル賞を受賞するきっかけになり、これまで10億人以上が服用している抗生物質『イベルメクチン』の基になる細菌も、静岡県伊東市のゴルフ場の土壌から発見しました。この発見は1グラムの中に1億個いるという土の微生物を丹念に調べてきたからこそ。偉業は机の上ではなく、地面と向き合ったことで成し遂げられたのです」

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