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世界一貧しい大統領の愛称で世界中の人に愛されている、南米の元ウルグアイ第40代大統領のホセ・ムヒカ氏が4月5日~12日の日程で初来日。彼の人生を綴った『世界でいちばん貧しい大統領』(角川文庫)の発売を機に、出版社の招聘をうけた。そんななか4月6日に都内で会見が行われた。言葉の重みが話題を呼んだ会見、その一問一答を紹介したい。

 

 

皆様、おはようございます。今日、私はこの場をもちまして、マスコミの方をとおして日本の国民の方々にご挨拶できる機会を頂いたことを、非常に名誉なことだと思っています。私は昔から、非常に長い歴史を持つ日本について深い興味を抱いて参りました。私は80歳で、まもなく81歳になろうとしているわけです。この年齢で単に観光目的だけで25~26時間も長旅をして一つの国に行こうとは決して思いません。ですから私がここに来たのは、日本から学びたいのでここに来たわけです。

 

私の中には日本にしてみたい質問がたくさんあります。「人類はどこに向かっていくのだろうか?」「世界の将来はどこにはどこに向かっていくのだろうか?」という質問をいつも持っています。そして日本は、世界の中でも非常に優れた工業先進国で、そういう意味で進んだレベルにある国だと思っています。だからこそ、こうした質問を日本にしてみたいと私は思っています。私たちが、人類の将来、あるいは世界の将来、そしてどんな世界を夢みたいのかを考えずせずして、私たちの将来はないのではないでしょうか。

 

――ホセ・ムヒカ氏に質問です。アルゼンチンの大統領、オバマ大統領など多くの指導者と会談されたことが本の中で紹介されています。特に印象に残った会談を教えていただけますか?

 

私はかなり年齢をいっていますので、年とっているものは“思い出が詰まった重い魂のリュック”を背負っているようだと思います。私はこれまで、世界中の重要といわれる人物と話す機会を得ましたけれど、どれが一番強烈な印象になったかを一つ選ぶのは難しいです。私にとり、圧倒的に一番強い印象を残したのはチェ・ゲバラです。彼の在り方自体が、その地域に大きな影響を残したと思います。

 

ただ私が知った人物の中で、いちばん頭がいいと思った人物は、もしかしたら皆さんは知らない人かもしれません。大学の先生なのですが、スペインが共和制だった時代の大学の先生で、文化大臣を務められました。そうして私の心をうつ人物がおります。名前はホセ・レブラミン。私の心をうったのはこの大学の先生なのですが、素晴らしい先生に出会うのは、弟子の心を永遠にうちつづけることだと思います。彼はスペインの独裁時代に、多くの人が亡命しましたが、その亡命者たちの友人でもありました。

 

最近、キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長にも会いました。非常に高齢で年は取られていますが頭脳は非常に明晰です。オバマ大統領とは3度会う機会がありました。素晴らしい人だなという印象を受けましたけれど、非常に頭のいい人だという印象も受けました。おそらく彼が率いているアメリカ政府よりも、彼のほうが頭がいいのではないかと思います。大統領の職務にあるものは、自分のできることをする、あるいはできることしかできない。これはアメリカでの場合ですけれども、アメリカの場合は他の国よりも大統領としてできることが限られるかもしれません。私が非常に若いときですが、毛沢東とも会う機会がありました。ただそのときは写真のためにだけ一瞬会っただけでした。

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――ネクタイを用いない哲学をお聞かせください。私個人的にはネクタイを使わないほうがこの世界がよりよくなるのではと考えておりますが。

 

今のジャーナリストの人が質問してくださったことと同感です。私は世界を変えるための闘争をしてきましたけれども、私が目指す世界というのは、「ネクタイを使いたい人は使えばいい。使いたくない人は使わなくていい」。そういう世界を目指して闘ってきました。個人的には、非常に簡素なつつましい、質素な暮らし、抱え込まない暮らし、人生がいいと思っています。でもそれを誰かに強制や強要をしたいとは思っていません。

 

自由のためには戦いたいし、闘ってきた。でも自由のための戦いや、自由というのは、他者がしたいことを妨害することではありません。質素な暮らし、つつましい暮らしをするというのは、本当に私がしたいことをする時間が増えるということ。それが私は自由だと思っています。私がややこしい、それはしょっちゅう新車や家を買い替えて、どんどんいろんなものを買ったり変えたりすることで、それをしていたら、本当に私がしたいことをする時間がなくなってしまう。そういう意味で今質問してくださったことに感謝します。ですから、ネクタイよりも大切なものがあるんですよね。それを象徴しているのが、ネクタイなんです。

 

――オバマ大統領が印象的人物の一人ということでしたが、キューバとアメリカが国交正常化して、オバマ大統領もキューバ訪問するという歴史的出来事がありました。この出来事の裏にムヒカさんのご尽力があったと伺っていますが、どのように具体的なことをなさったのか?またなぜ両国を取り持とうと思われたのか、お聞かせください。

 

実際に私がしたことは、オバマ大統領からカストロ前国家評議会議長へ小さなメッセージを持っていって伝えたことです。そのメッセージというのは、キューバの刑務所にアメリカ国籍の囚人が収容されていて、その服役囚の健康状態を非常に心配しているというメッセージでした。それを伝えたということです。

 

当時、両国は秘密裡にではありますが交渉は存在していました。そのときに、キューバで収監されているアメリカ国籍の服役囚の健康状態が悪化して何か変化して世界に知れてしまっては、それはオバマ大統領にとってもあまり都合のよい状況ではないということ。私の方からは、アメリカ国籍の服役囚のことをオバマ大統領が心配していることをキューバ伝えましたし、またオバマ大統領にはグァンタナモ収容所、こちらは恥ずべき刑務所であると私は感じていて、収監されている人を何とかするべきだと伝えました。オバマ大統領も「なんとかしたい」という気持ちは強く持っていましたが、いまだに解決できないし解決が難しい問題であるという状況です。こういうことがオバマ大統領との間でありました。

 

必ず私たちは平和に導くような解決策をみつけなければならないですし、特にラテンアメリカではそうです。そうじゃない限り、常に犠牲者は弱者になるからです。ある意味でそれをするのが私たちの義務であるからです。なぜならいまだに人類は、“戦史”時代を生きているからです。戦争を完全に放棄する時代が来たら、人類は“戦史”時代を脱却することができるのです。

 

後編に続く

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