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鳥取県智頭町は、岡山県との県境近くの山間にある。人口およそ7,500人。かつて林業で栄えた町の面積の約93%は森だ。

 

この町に「森のようちえん まるたんぼう」はある。だが、「森のようちえん まるたんぼう」に、いわゆる園舎はない。智頭町の森全体が活動フィールド。雨の日も雪の日も、午前中はさまざまな地区の森で遊び、午後2時以降は町内に借りた古民家で自由に過ごすのである。

 

「なにより大切なのは、森での体験を通じて“怖い”とか“美しい”といった感覚を磨くことです」

 

こう語るのは、「森のようちえん まるたんぼう」の創設者であり、代表をつとめる西村早栄子さん(44)だ。「町おこしのアイデアに予算をつける」という町の取り組みが始まった時期に、子育て中の親たちと勉強会を重ね、’08年に前身となる会を立ち上げ、「森のおさんぽ会」をスタート。それに手応えを感じ、’09年4月に「森のようちえん まるたんぼう」を開園した。

 

母親や父親が、保育士の力を借りて保育を行う共同保育のスタイルをとり、当初は毎日通う園児は2人だったが、やがて6人になり、翌年には10人。注目されるにつれてさらに増え、’11年にはNPO法人化。’13年には、2歳児から預かる「すぎぼっくり」も開園。

 

「県外からの入園者も増えたんです。いまでは毎年3〜5組のファミリーが移住してきています」

 

豊かな自然の中での幼児教育−−このころから「森のようちえん」は全国各地で広がりをみせている。親たちの願いと、行政の過疎化対策が重なる流れもあるのだろう。

 

智頭町も’09年には保育士の人件費の支援と、園バスの運行費を助成。’11年に「森のようちえん支援制度」を発足。’13年には全国に先がけて、「森のようちえん認証制度」に取り組んでいる。

 

現在、入園料は3万円。保育料は月3万円。給食費は年間約2万円。「まるたんぼう」には年少(3歳)、年中(4歳)、年長(5歳)各組10人で計30人、「すぎぼっくり」には16人の園児が通う。

 

「森には子どもたちに必要なものが何でもあるし、1日として同じ森はないんですね。いろんな感覚が身につく3〜5歳の間に森で過ごすことは大切だと思います」

 

ときにおおらかで、ときに厳しい大自然に見守られ子どもたちはスクスクと成長し自立心を育んでいく。「幼稚園から英語教育を」といった風潮がいまの日本を覆っている。だが、子どもが初めに習うべきことは、ABCではなく、「感性を育む」ことではないだろうか。この「まるたんぼう」の子どもたちのように。

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