『司法統計年報』によると、特別養子縁組の成立件数は増加傾向にあり、’10年の325件から、’15年には1.7倍の544件に伸びている。こうしたニーズを察知し、新規参入を試みる事業者のなかには、あえて議論を呼ぶようなやり方をするケースも。
大阪市から8回の行政指導を受けた、「インターネット赤ちゃんポスト」のサイトでは、《中絶を考えられている方へ「産んでくれたら最大200万円相当の援助」があります》《【新規募集】H29年7月頃出産予定ベビーの特別養子縁組里親 募集》という見出しに、実親の居住地や国籍、年齢、健康保険の有無を掲載するなどして、インターネット上で赤ちゃんや養親の募集を行っている。
大阪市こども青少年局子育て支援グループにこのことを聞いてみると、「法に触れることではありませんが『赤ちゃん=200万円』という印象を与えるので、ウェブサイト上から文言を削除してくださいと、行政指導をしています」とのことだった。
サイトを運営するNPO法人・全国おやこ福祉支援センター代表理事の阪口源太氏は、本誌の取材にこう答えた。
「“人身売買”と誤解される表現をしていますが、それによって何人もの女性が人工中絶をやめているんです。私としては“赤ちゃんが死ねばよかったのか”と反論したい」
心配されるのはこのような文言を見てお金欲しさに出産する女性が出てくることだが……。
「女性はそれほど馬鹿じゃない。みな妊娠することのリスクを知っていると思います。そもそもこの金額は、最大で200万円の援助が受けられるというものです。相談にくるのは、夜のお仕事をしている女性が多い。彼女たちはおなかが目立つ妊娠6カ月くらいから生後2カ月くらいまで働けません。つまり半年ほどの生活費のサポートが必要なのです」
月に15万〜20万円の生活費、養子縁組を成立させるための弁護士費用、マタニティ用品の購入、体調が悪いときの健診にはタクシー代もかかる。
「また運営費として50万円をいただくと、だいたい1回の養子縁組に200万円くらいはかかります。ただし、事務仕事をされて、体調がよくて臨月まで働けるような人ならば、その分、生活援助の金額は少なくなります」
養親候補者はオリジナルのマッチングアプリに登録し、個人情報を打ち込むと点数化される。さらにメールやLINEでやり取りをして、養親候補への家庭訪問は最低限、一度はしているという。その判断基準は−−。
「客観的エビデンスしか信じません。人間性などは、それを判断する人間の主観によってまちまちですから。最も“見える”のは資産や収入。持ち家なのか、職場はどこなのか、収入はいくらなのかということ。社会的信用と収入は比例することが多い。(養親になる基準は)審査という意味では、銀行の融資に近い部分があります」
悪質な違法業者を増やしてはならないと国も重い腰を上げた。昨年12月、養子縁組をあっせんする民間事業者を規制する法案が可決。法律が施行されるまでの約2年間で、具体的な内容が議論されるという。
何より、いちばん大切なのは赤ちゃんの“将来の幸せ”。そのためのルール作りは社会の責任ではないだろうか。