「もやしは世界中で食されていますが、日本のもやしは最高峰の品質で、もっとも安価です。しかし、利益を出すのは難しく、生産者は廃業の危機に瀕しています。現状のままでは、日本の食卓から、もやしが消えてしまいます」
こう訴える「工業組合もやし生産者協会」理事長の林正二さんは、3月9日に《もやし生産者の窮状について》という文書を、約550の小売店や市場関係者に送付した。使い勝手がよく、栄養価も高い“主婦の味方”であるもやしが、なぜ危機に瀕しているのか。
「原材料費の高騰が大きな原因です。店頭に並ぶもやしの8〜9割が、緑豆が原材料です。緑豆は世界中で栽培されていますが、雨にぬれてしまうとカビが生えてしまい、もやしに適しません」(林さん・以下同)
そのため、収穫時期の9月に、ほとんど雨が降らない中国の吉林省と陝西省などに、産地は限定されるのだ。
「しかし経済発展する中国では、農民がより高い収入を得ようと、とうもろこしやじゃがいも、大豆などにシフトしています。緑豆の作付けを続けてもらうには、買取り額を上げるしかありません」
原材料費は上がり続けているのに、販売価格はさほど変わらない。総務省の家計調査でも、1袋200グラムの全国平均価格は、40年前も現在も31円ほどだという。
「ピークは’92年の41円。その後、バブル崩壊によってデフレが進むと、小売店はもやしを目玉商品として安く売り出すようになりました。納入先に『あまりに安いので、協力してください』と頼みましたが、有効な対策が打てず……。それが自分らのクビを絞める結果になりました」
こう自省するが、生産コストを削減するために企業努力も最大限重ねてきた。林さんが代表を務める「旭物産」では、もやしの育成、洗浄、計量、包装に至るまでオートメーション化。人件費を抑え、生産量増加を図っている。栽培技術の向上によっても、原材料費高騰に対抗してきた。しかし、いくら企業努力を重ねても、燃料費の高騰や、円安ドル高の為替相場が、経営の足かせとなった。
「’05年と最近を比べると、原材料費は3倍に跳ね上がっています。一方、販売価格は1割も下落……」
’09年には全国に230社あった生産者が、100社以上も廃業している。それでもまだ林さんの元には「赤字が膨らむ一方で続けられない」という同業者の声が届いている。
「“会社をたたむ力”があるならまだいいほうで、いつの間にか連絡が取れなくなって、会社まで行ってみると夜逃げ同然にもぬけの殻になっているケースも。長年、おつきあいのあるもやし屋さんが、こんな形で廃業するなんて、本当につらいです」
だからこそ、林さんは全国の小売店や市場関係者に“適正価格”を求めているのだ。
「コストに見合った販売価格を計算すると、1袋40円ほど。消費者の方からは『50円超えると高いけど、そのくらいなら払える』という声もいただいていますし、われわれもなんとか頑張れます。みなさんに、ご理解いただきたいです」
販売価格は消費者のニーズによって変わるもの。私たちも、生産者たちの窮状に耳を傾けなければならない。