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「届けたお菓子やジュースを見たお母さんは、息子さんの肩を抱き寄せて『これでお友達呼べるね』って。その目は涙ぐんで見えました」

 

こう話すのは貧困世帯の子どもに直接食品を届ける全国初の試み「こども宅食」で、配送を担当したココネットの友定由生子さん。

 

東京都文京区と認定NPO法人フローレンス、NPO法人キッズドアなどの協働で始まった、こども宅食。食品は多くの協賛企業が提供、運営資金はふるさと納税でまかなわれている。1回目の配送は10月。米や調味料、お菓子などの食品が、文京区内の150の貧困世帯に届けられた。

 

「お子さんたちは友達の家で遊ぶことも多いそうなんですが、よそのお宅では必ずおやつが出るんだとか。でも、食費を切り詰めていた利用者さんの家では、その余裕はなくて。息子さんはこれまで、友達を家に呼ぶことができなかったそうです」(友定さん)

 

一般的な宅配便などと違い、友定さんが所属するココネットでは、高齢者宅に食材を届けながら見守る、というサービスも手がけてきた。こども宅食では配送スタッフが各家庭の状況を観察し、コミュニケーションを図って悩みをすくい上げる役割もある。全体の調整役を担うフローレンスの廣田達宣さんは言う。

 

「困窮した現状を周囲に知られたくないという親御さんが多く、子どもの貧困は実態がとても見えにくい。でも、こども宅食では利用者のお母さんと私たち事務局がLINEでもつながっています。悩み事を行政に橋渡しできるのです」

 

長年、貧困世帯の子どもを対象に学習支援を行ってきたキッズドアの理事長・渡辺由美子さん。渡辺さんは、「このプロジェクトでできたつながりが、さらなる転落を防いでくれる」と話す。

 

「パート収入しかないシングルマザー世帯では貯蓄する余裕はありません。お母さんが病気で仕事を休むだけで、貧困の坂道を転げ落ちてしまいます。また修学旅行の積み立ての引き落としに銀行の残高が足りないなど、急場の“1万円”が必要というとき、情報も相談する相手もいなければ彼女たちは、安易にカードのキャッシングに手を出してしまうこともあるんです。でも、LINEで手軽に相談ができたら、事務局は行政の多様なサポートメニューを紹介できるし、支援団体につなぐこともできます」

 

比較的裕福な家庭が多い文京区。だが、区内の「児童扶養手当」受給世帯は約700世帯、「就学援助」受給世帯は約1,000世帯に上り、こども宅食にも458世帯が応募した。「隠れた貧困」はここにも確実に存在する。渡辺さんは言う。

 

「日本の貧困の特徴は『相対的貧困』といわれます。周りの人ができることが、自分にはできない、そこがつらい。比較的余裕のある家庭が周りに多ければ、困窮している家、とくにひとり親家庭のお母さんは、余計にしんどい思いをします。子どもに惨めな思いをさせている自分を責め、周囲に同じ思いを共有する人はほとんどいない状況で、孤立を深めていくんです」

 

ママ友のなかには「あの家の子とは遊ばせないほうがいい、あとで何か起きたらどうするの」と、思いを共有するどころか、貧困を理由に、あからさまな嫌がらせをする人もいるというから驚きだ。

 

「今回、あるお母さんから『利用者同士で1年に1度でも集まれる機会が欲しい』という声が上がってきましたが、その気持ちはよくわかります。収入格差が大きいママ友やPTAの友人たちとは、やっぱり話は合わない、でも合わせないといけない、そのつらさから解放されたいんです。そして、同じ境遇の者同士つながりたいんですよ」(渡辺さん)

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