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両親が共働きで、いつも“一人で食べる”からだろうか、水で流し込むように食べる子も多い。朝食抜き、出来合いのお総菜ばかり並ぶ……見えてくるのは、現代日本の子どもたちが直面せざるをえない「食」の貧しさなのだ。1週間にたった1度でも、豊かな食事を皆で囲めば、子どもも大人もひと息つける。そんな場所が、今こそ求められている――。

 

東京都大田区は東急池上線の蓮沼駅近くにある「気まぐれ八百屋だんだん」。毎週木曜午後5時半から8時までこども食堂が開かれる。

 

3児の母で歯科衛生士の近藤さんが’12年夏に開いた食堂は、日本で初めて「こども食堂」の名称を使った第1号。名付け親も近藤さんだ。

 

「シンプルにして目的を的確に言い当てたネーミングがまずあって、近藤さんのこども食堂をお手本に、日本中に広がっていきました」

 

そう話すのは、法政大学で、こども食堂安心・安全向上委員会代表の湯浅誠さん(49)。同委員会が4月に行った初の全国調査で、日本中にこども食堂が2,286カ所あると判明。2年前の調査では、わずか319カ所だった。

 

「1日の食事をほとんど給食に頼る子、学びたくても塾に行けない子。子どもの7人に1人が貧困といわれる今、貧困対策として始まったこども食堂ですが、もはや社会のインフラになりつつあります」(湯浅さん)

 

全国で利用する子どもは推定100万人超。だんだんのこども食堂にも毎回40人もが訪れる。なかには、驚くほどお代わりをしたり、ここで初めてお肉を食べたという子も。近藤さんこだわりの独特のスタイルは、子どもだけでなく大人も大歓迎なこと。

 

「子育てに追われる赤ちゃん連れの若い母親や、いつも一人で食事をしている高齢者、あとシングルマザーは予想していた以上に多いです。誰もが張りつめたなかで生きている社会ですから、子どもにも、大人にも、家庭以外に安心して訪れることのできる居場所が必要と思うんです」(近藤さん・以下同)

 

そして、近藤さんはこう続ける。

 

「私は、最初から貧困対策としてこども食事を始めたわけじゃありません。特に今は、貧しさは見た目だけで判断しにくいんです。貧困はお金だけじゃないです。愛情が足りていない人は子どもにも大人にも多い。だからこそ、どんな子もいつでもここに来られることが大事」

 

その言葉どおり、だんだんは365日ほぼ毎日開いている。だんだんの予定表を見た人は必ず驚嘆するほど、こども食堂はじめ日替わり企画は毎月60コマにも及ぶ。

 

「’12年8月のオープン初日はカレー。子ども300円、大人500円で、『野菜をふんだんに使った料理を作るから』と、店の前を通る登下校中の子どもたちや母親に声をかけ続けました」

 

値下げに踏み切ったのは’15年春だった。子ども300円から100円にした。

 

「その年の1月に『こども食堂サミット』という催しを都内で開催したことがきっかけで、テレビや新聞などで紹介される機会が増えました。すると、全国から食材などが届くようになったんです」

 

新潟はじめ米どころから30キロ単位で届く米、九州や四国などから送られる野菜、なかには佐賀のおばあちゃんの手作り味噌なども。

 

「木曜ごとに人数分のバナナを届けてくれる果物問屋の方も。じゃあ、この寄贈の分を子どもに還元しようと決めて100円にしたんです」

 

現在、多くのこども食堂は寄付を募ったり、会費制にするなど運営の工夫をしているが、自治体の助成金などを受ける場合は、人数や規模などで選別が行われるのが現実だ。

 

「うちを含めてほとんどがギリギリの台所事情でやっていると思います」

 

しかし、誤解も多い。ときには「子どもを集めればお金がもらえるんでしょう」「貧困家庭の子どもばかり集めるのはかわいそう」といった声も。

 

「うちは食中毒や事故などに手当てする社会福祉協議会の保険の助成は受けていますが、それ以外は頼らずにやっています。また、もともと貧困の子どもだけを対象にしていません。その基本姿勢についてはきちんと伝え続けたい」

 

たしかに“貧困家庭の子ども向け”と銘打てば、本当に困っている子らは、かえって足を運べないかもしれない。

 

「最近は外国人の子どもも増えました。また、シングルマザーの方の悩みはどんどん増しているように思います。だから週に1度でも、ここに来てもらいたいんです」

 

大人が心にゆとりを持つことが、ひいては子育てに疲れた親たちによる虐待などを、予防することになるのではないだろうか。

 

「最近の若いお母さんたちを見ていると、教育費にお金がかかりすぎるせいか、食費から削っているように見えます。私など、体を作るものは削れないと思って生活してきましたが……」

 

驚いたのは、一人で食事をしている“孤食”の子どもの多さだという。

 

「とにかくお水で食事を流し込む子どもが多い。テレビを見ながら、だからではないでしょうか。いくらカロリーを十分取っていても、孤食で黙々と食べていては味もわからないし、身にもならないのでは。きっとお母さんがいても、忙しくて、そこまで気がまわらないんでしょう。だから私はつい、『よくかんで食べなさい』って、いつも怒ってる人になる(笑)」

 

ときに近藤さんに愛ある小言を言われながら、子どもたちやシングルマザー親子が食事するかたわらで、一人暮らしの高齢女性が編み物をする光景は、今後の地域社会が向かうべき姿を示しているようだ。

 

近藤さんは、これら地域での活動が認められて’16年、社会貢献者賞を受賞。そして’17年春、子ども料金を100円から「ワンコイン」にした。

 

「やっぱり100円でも、払えずに帰る子もいるんです。そのバツの悪そうな顔を見るのがつらくて。無料にしてはという意見もありますが、金銭感覚を身につける大切さと、自分が父子家庭で育った経験から、毎回無料では子どもの自己肯定感が失われると思いました」

 

だから、ワンコイン。

 

「1円でも50円でも、外国のコインでもオッケー」

 

ボランティアも賛同し、早速子どもたちに「今度から、コインなら何でもいいんだよ」と告げたが、最初はポカーンとして事情をのみ込めなかったそう。近藤さんは、「1円でも、そう、ゲーセンのコインでもいいからさ」と続けた。実際にゲーセンのコインが入っていたのは1回きりだったという。

 

この6年間に、だんだんのこども食堂を訪れた子は、のべ7,500人以上になる。

 

「うれしいのは、小学生のころから通い続ける子が今や高校生。先日もゴールデンウイークだからって誰もが旅行やレジャーに行ける子ばかりじゃないと、こどもの日に『ボードゲームカフェ』開催しました。すると常連の高校生が『近藤さん、僕が司会をやりますよ』って言ってくれて。あと、ここでの体験がきっかけで福祉関係の学校に進みたいと話す子もいるんです」

 

今後は、徒歩や自転車で通えるのが子どもの安全にもつながるため、全国の地域ごとにこども食堂が増えることを望んでいると話す。しかし一方で、こんな複雑な思いも。

 

「食堂が増えても、みんなが国や制度まかせで、かわいそうな子も増え続けるのはダメ。“おすそ分け”に象徴されるように、お隣さん同士の助け合いが大事。そんな思いやりの気持ちが地域にあふれれば、こども食堂はいらなくなる。そんな社会になるといいなあ」