厚生労働省が6月3日に発表した、将来の年金給与水準の試算。これがはたして「安心」できるものなのか。うのみにできない3つの疑問点を、経済ジャーナリストの荻原博子さんが検証した。

 

【1.年金試算の前提が大甘】

まず、検証の基となる物価や賃金上昇率などの経済状況が、現実とかけ離れていて、信憑性がないことです。

’14年からの当初10年間は、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」(’14年1月)を用いています。アベノミクスが成功した経済再生パターンと、経済成長の遅いパターンの2種類です。’24年以降は、経済再生パターンは成長が持続するケースA~Eに、成長の遅いパターンはケースF~Hに続きます。

たとえば、ケースAの名目賃金上昇率は4.3%。仮に、’24年に500万円だった年収が年4.3%で上昇し続けると、10年後には730万円に達します。バブル期以上の賃金の伸び方に目を疑います。

国税庁の民間供与実態統計調査(’12年分)を見ても、’03~’12年の10年間、平均給与は右肩下がりです。厚労省の毎月勤労統計調査(’14年4月分)でも、基本給は23カ月連続で減少しています。ケースAは言うに及ばず、ケースHの名目賃金上昇率1.3%すら実現可能なのか、はなはだ怪しいと言わざるをえません。

 

【2. 一生専業主婦をモデルにして、もらえる年金額を多く試算】

次の疑問点は、年金水準の基となるモデル夫婦です。夫婦とも20歳で結婚し、夫は20~60歳まで平均的収入で働き、厚生年金保険料を払い続けます。妻は40年間、一度も130万円以上働かない専業主婦です。今の平均的な夫婦とは明らかに違います。

専業主婦は年金保険料を払わなくても、老齢基礎年金を受け取れますから、この設定がもっとも年金支給額が高く見えるのでしょう。レアな夫婦を、あたかも平均的であるように見せかけ、アピールしているように思えてなりません。

ここまでの疑問2点で、財政検証の基となる経済状況やモデル夫婦などの前提が、いかにかけ離れているかを示してきました。ありえない、まさにフィクションのような前提です。これは政府が’04年に宣言した「年金100年安心プラン」を死守するために、ひねり出したのではないでしょうか。年金水準50%の維持が先にありきで、それを達成するための逆算ではないかと疑われても当然です。

 

【3. 国民年金の目減り額が多すぎる】

もう一つの問題点は、自営業者や非正規社員などが加入する国民年金です。現在、モデル夫婦の年金支給額が21万8千円に対し、国民年金の夫婦は12万8千円と、格差が大きくなっています。

 

今回の検証で、経済成長が高く見込まれるケースAでは、モデル夫婦の年金水準が30年後に2割目減りしますが、国民年金夫婦は同時期に3割目減りする試算になっています。国民年金で生計を立てる方には過酷な数字です。

年金財政の先行きは不透明です。今回の検証では、現実的な未来が見えませんでした。実際の経済成長は、成長率のもっとも低いケースを下回る可能性もあるでしょう。厚労省は年金制度は安心だと宣伝し問題を先送りにしていますが、いずれ、支給年齢をさらに引き上げ、年金保険料も引き上げ、年金支給額を引き下げるという、制度改革が実行されるかもしれません。

経済ジャーナリスト
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