「アメリカでは人口の3〜5%が『貯蓄不安症(貯蓄障害)』で苦しんでいるという報告があります。これは、’13年にアメリカの精神医学会で認定されたばかりの症状です」

 

そう語るのは、脳科学の研究者で、武蔵野学院大学教授の澤口俊之先生。まるで強迫観念にとらわれたようにおカネをため込み、使ったり、手放したりできない人たちが最近、増えているという。

 

消費税アップをはじめ、年金など社会保障への不安や景気の不透明感など、おカネに対する心配はいつまでたっても尽きない。そんな、おカネに関する過剰なまでの心配が、その背景にあると澤口先生は話す。

 

「一度手に入ったものや動物など、とにかく自分のもとに置いておかないと、不安で仕方ない、という人がいます。得たものを失うことに恐怖すら抱き、その結果、日常生活が困難になってしまう人は、昔からいました。しかしこの、おカネに対する貯蓄不安症は、今まで認知されていなかった、新しいものなのです」

 

貯蓄不安症は、強迫神経症の一部に分類されている。1日に手を何十回、何百回と洗わなければ気がすまない、ドアにきちんと鍵をかけたか不安で、何度も家に戻ってしまう……そういった、ひとつのことにとらわれ、何度も確認を繰り返すのが、強迫神経症の典型的な症状とされる。澤口先生が続ける。

 

「普通は、そこまでこだわるのはおかしいんじゃないかと自覚できるのですが、貯蓄不安症の特徴は、そういった自覚が本人にないところです。こんなにため込みすぎている、おかしい、という状態を、本人は理解していないんです」

 

2年前に結婚した、専業主婦のAさん(36)は、あるとき、姑のお金に対するあまりの執着に驚いたという。

 

「ランチに誘われることがあるんですが、そんなとき、姑は絶対に財布におカネを入れてこないんです。いつも『今日は持ってくるのを忘れたの。悪いけど、貸してくれる?』と。『1万円札しか持っていないから、崩したくないのよ。次回は私がおごるから』と言われたこともありました。結婚してからの2年間で、5〜6回はあったと思います」(Aさん)

 

もちろん、代わりに支払ったおカネが戻ってきたことはない。Aさんは、そんな姑の態度に、いつも理解に苦しんでいる。舅は会社の役員を務めており、決して夫の実家が経済的に困っている、と言った背景があるわけではなかった。にもかかわらず、姑はおカネを出すことはいっさいなかった。

 

「私の夫は介護系の仕事で、年収は400万円ちょっとです。実家と比べると、そこまで家計に余裕があるというわけではありません。なので、最近はあれこれ理由をつけて、姑からの誘いを断るようにしているんです」(Aさん)

 

Aさんの姑のように、自分が裕福かどうかは、マネー病にかかることとは関係ない。むしろ、それまでの蓄えを取り崩したくない、せっかく手に入れたものを手放したくない、という気持ちがある分、おカネを持っている人のほうがマネー病にかかりやすいそうだ。では、どのような人が貯蓄不安症に陥りがちなのか。

 

「思春期の女性が多く男性の2倍、といった数のデータは一応ありますが、生まれつき持っている性質や性格、環境などは関係ありません。貯蓄不安症は誰にでも起こりうることなんです。またいまのところ、予防法や対策なども判明していません」(澤口先生)

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