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「『高所得者の負担を増やす』というと大きな反発もなく、法律が成立することがよくあります。でも、法律は『小さく産んで大きく育てる』ものだと政治家たちは言います。つまり、抵抗の少ない高所得者から導入し、あとは少しずつ改正を重ねながら、中所得者へ、そして全体へと枠を広げていくのです。決して人ごとではないと、捉える目を持ちたいものです」

 

こう語るのは、経済ジャーナリストの荻原博子さん。最近の税や社会保険などの負担増の矛先は、高所得者に集中。特に’18年8月以降は、高所得者の高齢者の負担が一気に増える。しかし、これらの負担は、次第に国民全体に広がっていくのが通例だという。そんな、高所得者の負担増を荻原さんが解説。

 

「まずは介護保険です。’00年から始まった介護保険は、当初、一律1割負担で介護サービスを受けられるというものでした。国全体でかかった介護費用は、’00年には約3兆6,000億円でした。ところが、’14年には約10兆円を超えました。介護保険料も、当初は月2,911円でしたが、’14年には月5,000円を上回り、’25年には月8,000円を超えるとの予測もあります」

 

そこで’15年8月に介護サービスの2割負担が導入された。2割負担の対象は、年金収入等が280万円以上の人(単身で年金収入のみの場合・以下同)だった。

 

「それからわずか3年、’18年8月からは、3割負担が導入されます。年金収入等が344万円以上の方で、介護サービス受給者の約3%に当たります。ただ、3割負担になっても、高額介護サービス費制度で毎月の自己負担上限が決められています。今のところ、高所得者の方でも月4万4,400円を超える分は、申請すれば返金されますので、大きく負担が増えることはないでしょう」

 

8月には、医療費にかかる高額療養費制度も70歳以上の人の自己負担上限額の引き上げがある。

 

「医療費は、70~74歳までの方は原則2割負担、75歳以上の方は原則1割負担ですが、現役並みの所得があれば70歳を過ぎても3割負担です。高額療養費制度とは、病院などを受診して、負担割合に応じて支払った医療費の1カ月分の合計金額が一定水準を超えたと申請すれば、超えた分が返金される制度です。’18年8月以降は、病院の窓口で3割負担となっている現役並み所得の高齢者の負担上限が上がります。加えて、一般的な収入の高齢者が外来を利用する際にも負担が増えます」

 

また、現役世代の高所得者も負担が増えている。

 

「’18年1月から実施される配偶者控除・配偶者特別控除の引き上げでも、詳しく見ていくと、世帯主の年収が1,120万円を超えると控除額が減り、1,220万円を超えると控除がなくなります」

 

’17年まで配偶者控除を受けていた世帯ではかなり負担が増える。

 

「8月には介護保険料の総報酬割が導入されます。これまで健康保険組合ごとに組合員の人数によって割り当てていた介護保険料を、組合員の給料も加味して介護保険料を決定する仕組み、つまり総報酬割に変えることです」

 

総報酬割が導入されると、給料が高い大企業の健康保険組合の負担が重くなる。すなわち、これも高所得者の負担増に当たる。

 

「また、6月にある給与所得控除の改正は、それまで年収1,200万円超で最高230万円控除されていたものが、’18年からは住民税で、年収1,000万円超で200万円の控除と、縮小されます。控除が縮小されると、それだけ税金が増えるので、高所得者にとっては負担増ということになります」

 

’18年度の税制改正大綱には、会社員の給与所得控除のさらなる減額や、高所得の高齢者には公的年金等控除の減額も盛り込まれると、先日決まったばかり。高所得者への負担増については、「お金持ちだから、それくらい負担して」と、問題視しない人が多いが、注意深く見守らなければいけないようだ。

経済ジャーナリスト
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