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「血圧がいつも120の人でも標高5,000メートルを超えた山に登ると、160ぐらいに上がってしまいます。しかし、父は平地ではふだん160ですが、山では120に落ち着いています。登山をしているほうが“下界”にいるよりも健康です」

 

そう語るのは、冒険家・三浦雄一郎さん(86)の長女・恵美里さん(58)。南米最高峰アコンカグア(標高6,961メートル)に史上最高齢での登頂とスキー滑降というチャレンジに挑んだ雄一郎さんだったが、日本時間の21日未明、日本から同行している医師の判断を受けて、登山の中止を決めた。

 

雄一郎さんは衛星電話で、「僕自身は、大丈夫だと、頂上まで行けるという自信もありましたが、医師の判断に従うことにしました。今回の遠征はこれで中止、ドクターストップとなります」と話していた。

 

86歳の挑戦――。今回は残念ながら中止となってしまったが、完全な健康体ではないのが当然の年齢で、ここまでできるのは強靭な肉体があればこそ。父親の活動を国内でサポートしていた恵美里さんが雄一郎さんの健康の秘密を明かしてくれた。

 

「やはり、影響が大きいのは食事です。山頂にアタックする前、ベースキャンプ(4,200メートル)に滞在しているときに一度、食欲不振になったようですが、豚汁を食べたらすぐに元気になりました。日本から持っていった4,900円の缶詰のウニを使った手巻きずしをペロリ。アンデス山脈で育った牛肉のバーベキューを満喫して“こんなうまい肉を食べたことがない!”とモリモリ食べていたようです」

 

酸素量は地上の半分以下、気温はマイナス30度にもなる高所でも耐えられる肉体の秘密とは?

 

「身長164センチで体重が87~88キロ。典型的なメタボ体形ですが、下半身の筋肉量と骨密度は20代のラグビー選手並み。そんな父の体を作り上げたのはやっぱりお肉です。お肉好きの父は、今でも“オオカミのように肉を食いたい”というのが口癖。とくに脂肪が少ない赤身の牛肉が大好きで、月に3回は行くステーキ屋さんには、朝から食事を控えて空腹状態で行って、大きな塊肉600~800グラムをペロリと食べてしまいます」

 

雄一郎さんといえば、肉好きばかりが取りざたされているが、ふだんの食事には意外な側面も。

 

「実は野菜やカルシウムの多い海藻類が大好きで、とくに野菜がたくさん食べられる鍋料理は頻繁に食べます。母(雄一郎さんの妻・朋子さん)が作るヒジキの煮物、ふんだんにワカメやとろろ昆布が入った味噌汁が大好物。あとのりも大好きで、大きなのりをちぎっては味噌汁に散らすことも」

 

そんな「三浦家の食卓」のポイントは「骨を強くする」こと。

 

「朝起きたらすぐに飲むのは、カルシウムたっぷりの赤ちゃん用粉ミルクに粉末緑茶、ココア、蜂蜜などを入れた特製ドリンク。登山の際にも携行するナッツ入りのスペシャルパンケーキもよく作ります。ほかにも体にいいものはなんでも混ぜ入れますね。一度、納豆を入れたことがあり、さすがに糸を引くパンケーキだけは、家族から不評を買っていました」

 

1人で食事するときは、コンビニで買ってきた骨入りサバ缶に、キムチ、納豆、生卵、そうめんなど、いろんな食材を豪快に混ぜて食べることもあるという。そこにはこんな背景がある。

 

「76歳のときに、スキー中の事故で大腿骨と骨盤3カ所を骨折。一生寝たきりになってもおかしくないほどの大けがを負いました。そのとき母が、毎日、病室に運んでいたのが、サケの頭を大根や昆布と一緒に圧力鍋で煮込んだ料理。骨ごと食べられる料理を毎日食べたことで、驚異的に回復していきました。その後簡単に食べられるサバ缶なども、食卓にのぼるようになりました」

 

祖父・敬三さん(享年101・100歳まで現役のスキーヤーだった)が骨折はしてはいけないと言っていたのを改めて思い出したのだという。

 

雄一郎さんの主治医であり、アンチエイジングの第一人者の白澤卓二先生が解説する。

 

「食が細くなり、栄養不足になりやすいシニアほど動物性タンパク質を積極的にとったほうがいいのです。肉から得られる良質なタンパク質には筋力低下を防いだり、免疫力を高めたりする効果があります。三浦さんのように骨を強化するメニューも重要。骨密度が低下すると骨折しやすくなり、寝たきりになる可能性が高まります」

 

最後に恵美里さんが語る。

 

「食欲が健康のバロメーターという父がもっとも大切にしていることは、山の上でも、どんな場所でも食を楽しむということです。同じ86歳の方でも父よりも健康な人はいるはず。それでも自分の限界を超えて山に行こうとは思わないでしょう。父の何歳になっても限界にチャレンジする姿から、何かを感じ取っていただけたらうれしいです」

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