画像を見る

現在の日本人女性の平均寿命は約87歳。いままで、80代と50代が多かった母娘間の介護も、高齢化によって90代と60代まで上がっている。そんな“90歳を超えた老母の介護と看取り”を当事者が自らの経験を語る――。

 

「ごめんなさい……母の姿を思い出すと、いまでも涙が出るんです」

 

涙がその頬を伝ったのは、女優の藤真利子さん(63)。直木賞作家の藤原審爾(’84年没)を父に持ち、映画『薄化粧』『吉原炎上』など数々の名作に出演してきた藤さんは、’16年11月7日、脳梗塞で倒れた母・藤原静枝さんを11年の介護の末、自宅で看取っている(享年92)。丸2年を経ても、晩年の母を思い出すと涙が出るという。

 

「在宅介護しか選択肢がないなか、仕事をセーブしてまで介護して母を看取った経験を、私は『恵まれている』とさえ思う。みんながみんな、機会があることではないからです。だから、介護がつらいだなんて思ったことはなかった」

 

そう気丈に話す藤さんだが、介護生活のあいだはやはり、心労がたたっていたのだろう。

 

同じく母を看取っている友人で作家の林真理子さんは、親身になって相談に乗ってくれた。その林さんに、最近になって、こう言われた。

 

「あのころのフジマリちゃんは、女優の顔をしていなかった」

 

弱り目の藤さんに寄り添ってくれる友人は、ほかにもいた。

 

「ユーミンは、ご夫妻で励ましてくれました。生前、コンサートに行くのが、母の楽しみでもあったんです。それから、安藤加津さんには、母の介護のアドバイスをいただいた。介護って母と娘だと“密室”になってしまうものだけど、私はそんな、見守ってくれる存在に恵まれたんです」

 

’17年には介護体験を綴った『ママを殺した』(幻冬舎)を出版した。冒頭で「喪失感」を吐露した藤さんだが、いまも自宅では……。

 

「介護生活のときと同じように、介護ベッドがあったところに母の遺影を置いて、私は横に布団を敷いて寝ているんです」

 

一方、母の形見として「ひとつも捨てられなかった洋服」は。

 

「火事で家が全焼してしまった近所の友人に、緊急の暖として、ごっそりあげちゃったんです」

 

そうして自然な形で“卒介護”にシフトするいま、あらためて、介護経験を振り返って話す。

 

「一人娘の私を女手ひとつで育ててくれた母は、私のなかで“絶対に死なない存在”でした。それまで私のライフプランには、『母を介護する』というのがなかったんです。でも、介護した11年間に、世間で“介護”や“在宅”という言葉がどんどん現実問題となり、直面する人が急増しました。今後は、はじめての介護で右往左往している人のために、講演活動も積極的にしていきたいと思っているんです」

 

80代50代から90代60代へ、介護問題が新しい局面を迎えても、変わらないのは、そこにある母娘の絆なのだ。

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: