風太くんは今も食事ときにつかまり立ちを見せることがある。(提供:ボブ&まろ) 画像を見る

人間社会と同じように高齢化の波が押し寄せる動物園。年を取っても元気な姿には励まされる一方で、次の世代を入れられないという深刻な問題に悩まされてもいるーー。

 

淡路ファームパーク・イングランドの丘では、コアラのひかりが誕生日の2月1日に死亡したと同時に、みどりが23歳になった。人間なら110歳以上になるという。

 

また、1月31日にはアドベンチャーワールド(和歌山県)でジャイアントパンダの永明(エイメイ)が生誕1万日を達成。こちらも人間にたとえると80代だ。

 

高齢のみどりと永明。2頭に限らず、全国の動物園にはこうした動物がたくさんいるという。

 

「当園でも20年以上飼育している動物が75個体以上います。飼育下は外敵がおらず、餌の栄養価は高い。冷暖房も完備されており、快適な条件がそろっているので、長生きしやすいんです」

 

こう語るのは、千葉市動物公園の副園長・清田義昭さん。同園のスターアニマルといえば、レッサーパンダの風太くんだ。

 

「風太は今年で17歳です。レッサーパンダの寿命は飼育下だと15~18歳といわれており、人間にたとえると80代くらいになります」

 

すくっと二本足で立ちあがる姿が印象的な風太くんだが、もともと立つのは好奇心が旺盛で、外の景色を眺めるためだという。

 

「最近は年齢的に達観したというか、外の風景に慣れて、あまり立ち上がりません。でも、餌をあげるときは、飼育員の前でつかまり立ちを見せたりします。右目には白内障を患っており、今は左目にも異常がないか、こまめにチェックをしています」

 

風太くんのような動物の高齢化はほかの動物園でも起こっている。

 

ときわ動物園(山口県)では、敬老の日に高齢動物がいるバックヤードを公開。動物課長補佐の木村嘉孝さんがその理由を話す。

 

「動物園は生きることを学ぶ場でもあるので、展示できない高齢動物を公開することも意味のあることだと感じています。バックヤードにはテナガザルなどがいますが、なかには胃腸が弱かったり、指が1~2本曲がりにくくなっている個体もいるので、餌は柔らかく、握りやすいものにしています」

 

京都市動物園・種の保存展示課の山下直樹さんも現状を語る。

 

「当園のアカゲザルは、屋外の猿島で飼育していますが、高齢の個体は動きが鈍く、若いサルに餌を食べられてしまうこともあります。そこで、高齢のアカゲザルのために“老猿ホーム”を作りました。高い位置にある屋外へと続く通路には、スロープを設置して、転倒しても大丈夫なように床にはわらを敷き詰めています」

 

同園では1月31日、長年ケアしてきた国内最高齢のライオン(ナイル)が死亡した。

 

「数年前から食べる量が減り、痩せて胸や腰の骨が浮き上がっていました。以前は体つきがしっかりしていて、毛のツヤもあったのですが……」

 

日々、衰える姿に「安楽死を」という声もあったという。

 

「でもナイルは、部屋から外の展示場に自ら歩いて出ていました。それに動物の一生をお見せすることも動物園の役割だと思います。そこで、天寿を全うするまでケアを続けたんです。ただ、新たにライオンを導入する予定はありません」

 

同園のようにライオンやゾウといった大型動物が死亡したとき、次がいない動物園は少なくない。

 

体感型動物園iZOO(静岡県)の園長で動物商の白輪剛史さんが、その背景を解説する。

 

「これまでの動物園は、1~2頭といった少数で、いろんな動物を見てもらうことに力を入れていた側面がありました。また、例えばゾウの場合、ケガのリスクを避けるため、比較的おとなしいメスばかり購入していたこともあった。その結果、種の保存という動物園の役割が薄れ、繁殖があまりされてこなかったんです」

 

一方で現在、海外の若い個体を購入するハードルは高い。

 

「動物愛護や種の保存のための設備が整っていないと、海外から購入することはできません。多くの動物は繁殖のために群れで飼う必要がありますが、日本の動物園はそのための広いスペースを確保するのが難しいのです。今後は、なんでもいる動物園から、種類を絞って群れで飼育するスタイルに変わっていくのではないでしょうか」(白輪さん)

 

前出・京都市動物園の山下さんも、今後の展望をこのように語る。

 

「ライオンはスペースの問題で受け入れる予定はないですが、ゾウの場所を確保し、ラオスから4頭の子ゾウを導入できました。今後は繁殖にも挑戦したい」

 

高齢化が進む動物園は今、新たなあり方が求められている。

 

「女性自身」2020年3月3日号 掲載

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: